ガールズトーク、ボーイズトーク ⑤
夕方になり、打ち合わせの終わったシンヤがマユを迎えに来た。
『もし片桐が留守の間に何かあったら遠慮なく電話して』と言い残し、マユはマコトを連れて帰って行った。
それからレナとハルは二人でキッチンに立ち、使い終わったグラスやお皿を洗いながら夕食の献立を相談した。
「ハルちゃん、晩御飯何が食べたい?一緒に作ろうか」
「ハルはあまりレパートリーがないから、何かハルでも作れそうな料理教えてください」
「うーん……じゃあ、豆腐ハンバーグとか作ってみる?和風のあんをかけるの」
「美味しそう!!ぜひ教えてください!!」
レナは冷蔵庫や野菜室の中を覗きながら献立を考える。
「お味噌汁の具は茄子と玉ねぎでいいかな」
「うちではお味噌汁に茄子は入ってた事ないかも……」
「そう?美味しいんだよ。あとは……キュウリとワカメとカニかまぼことコーンの酢の物にしよう」
「酢の物にコーン?」
「うん。酢の物にコーン入れると、甘くて美味しいの」
「へぇ……知らなかった……」
「じゃあ早速作ろうか」
それからハルはレナに教えてもらいながら豆腐ハンバーグを作った。
レナはハルに手順を教えながら他の料理を作る。
手早くキュウリを輪切りにするレナの手元を見つめ、ハルが目を丸くした。
「レナさんすごい……!」
「一応主婦だし……昔からユウと一緒に料理してたから」
「ユウさんと?」
ハルはハンバーグのタネを捏ねながら、不思議そうにレナの顔を見た。
「私たちマンションの隣同士でね、物心つく前からの幼なじみで……お互い一人っ子で父親がいなくて、母親は仕事で忙しくて。だからいつも一緒にいたんだ。一緒に勉強したり遊んだり、大きくなったら二人で料理して御飯食べたりしてたの」
「へぇ……。そう言えばとーちゃんが、この間ユウさんに御飯作ってもらって美味しかったって言ってました」
「ロンドンにいた時は、ユウがみんなの御飯作ってたみたいだね。料理できる人がユウしかいなかったからって。リュウさんには髪を切ってもらってたって言ってたよ」
「とーちゃん、元美容師だから。ママもきーちゃんも美容師」
「きーちゃん?」
「ママととーちゃんのお母さんで、ハルのおばあちゃん。皐月って名前だから」
二人は料理する手を動かしながら話し続けた。
「ハルちゃんは将来の夢とかあるの?」
「今はまだないけど……ママが、何かやりたい事見つけなさいって。とーちゃんさえいたらいいなんて甘い事だけは考えるなって言われた」
「いいお母さんだね」
「レナさんはカメラマンとモデルでしょ?」
「モデルは小さい頃からやってるけど、母親の仕事の手伝いみたいなものだよ。カメラマンがいいからなんとかやってきたけど……他のブランドでは通用しないの。私、人見知りがひどくて、カメラ目線とかポージングとかモデルらしい事が苦手で……。すぐクビになるだろうね」
レナは笑いながら酢の物用の合わせ酢を作る。
「カメラマンになろうと思ったのは?」
「高校の時、担任の先生が写真部の顧問でね。やってみないかって勧誘されて、やってみたら楽しくて。3年の夏休み前にユウが急にいなくなって……すごく寂しかった時に、ユウの後ろ姿を撮った写真で、新聞社のコンクールで賞をもらったの。それで続けてみようかなって。芸術大学の写真科に進んで、本格的に勉強して、須藤さんの写真事務所に就職した」
ハルはハンバーグを形成する手をふと止めた。
「へぇ……。ハルにも何か見つかるかな……」
「ゆっくり探せばいいよ。無駄な経験ってないと思う。なんでも興味を持ったらやってみるといいよ」
レナの言葉にうなずいたハルは、再びハンバーグを小判型に形成する。
「うん……。とりあえず今は、とーちゃんのためにもっと料理が上手になりたい」
レナは、リュウのために一生懸命なハルを見ていると、心が温かく優しい気持ちになるのを感じた。
(ハルちゃんはホントにリュウさんの事が大好きなんだなぁ……。その気持ちに、歳とか関係ないよ……)
「リュウさんは幸せだね」
レナが微笑むと、ハルは少し照れくさそうに笑いながら、小判型にしたハンバーグのタネを熱したフライパンに並べた。
「今はまだ子供だって思われてるかも知れないけど……いつか、とーちゃんの口から、ハルと一緒にいられて幸せだって、言ってもらえるといいな……」
ハルはそう言って、ハンバーグのタネを捏ねるために外してカウンターの上に置いた、リュウとお揃いの指輪を見つめた。
「とーちゃんが『ハルを幸せにできるのはオレだけだから』って言ってくれたから……いつか『とーちゃんを幸せにできるのもハルだけだよ』って言えるように、頑張るんだ」
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