ガールズトーク、ボーイズトーク ①
レナの出産予定日が10日後に迫ったある日。
ユウたち『ALISON』のメンバーは、地方での夏のライブイベント出演のため、3日ほど東京を離れる事になった。
朝早く自宅を出たメンバーたちは、移動車の中で眠そうに欠伸をしたり、既にうたた寝を始めたりしている。
車の後部座席ではユウとリュウが並んで座り、缶コーヒーを飲んでいた。
「ハルのやつ、ちゃんと迷わずユウんちにたどり着けるかな……」
リュウが心配そうに眉を寄せた。
「大丈夫じゃないか?ハルちゃんだって子供じゃないんだから」
「まぁな……。でも、子供じゃねぇから心配ってのもあるんだよなぁ……」
「ん?なんの事?」
ユウが尋ねるとリュウは眉間にシワを寄せて、険しい顔をした。
「アイツな……意外とモテるみたいなんだよ。前も同級生の男に迫られてたし……この間もオレが仕事で留守の時に近所のコンビニに買い物に行ったら、わけわからん男たちにしつこく声掛けられたって言ってな……」
「ああ……かわいいもんな。今時の女子高生って感じでスタイルもいいし」
「……そうか?ガキの頃からずっと見てるとわからねぇな……」
(そうだろ?アイツかわいいんだよ!……とは、さすがに言えねぇ……)
視線をそらしてわざとぶっきらぼうに答えるリュウの肩を叩いてユウは笑った。
「リュウはホントに素直じゃないなぁ。ハルちゃんがかわいくて仕方ないくせに……」
「はぁ?ユウほど溺愛してねぇっつーの」
「心配性のリュウのために、ハルちゃんが無事に到着したか、後でレナにメールでもして確認してみるよ」
「ユウ……最近性格変わったか……?」
「リュウほどじゃないよ」
夕べ、ユウはレナのお腹を撫でながら心配そうな顔をした。
「オレが留守の間、大丈夫かな……。レナ一人の時、もし急に産気付いたらどうしよう……」
「多分大丈夫だよ、ユウ。予定日まであと10日もあるし……。初産だから、そんなに早くはないと思う」
「そんな事言って、佐伯だって初産で予定日より随分早くなかったか?しかもシンちゃんが留守の時だったろ?オレはもう心配で……」
心配だから行かない、とでも言い出しそうな勢いで、ユウはレナを抱きしめた。
「じゃあ、この子に言い聞かせとく。パパがいないうちは、まだ出てきちゃダメだよって」
「聞いてくれるかな……」
あまりにもユウが心配するので、『ALISON』がライブイベントに行っている間、リュウがいなくて一人ぼっちになるハルに泊まりに来てもらったらどうかとレナが言い出して、ユウはリュウに電話をした。
『いざって時、ハルじゃなんの役にも立たねぇと思うけど……いいのか?』
「一人きりよりは安心だよ。それにリュウもハルちゃん一人きりにさせるの心配だろ?」
『まぁ……そうだな。じゃあ、明日行かせるわ。たいした事はできねぇと思うけど、家の手伝いさせてくれって片桐さんに言っといて』
お昼前、ハルはリュウに言われた通り、ユウの自宅近所のスーパーで少し高めの桃やブドウなどの果物を買って、ユウの自宅を訪れた。
(とーちゃんって律儀と言うか真面目と言うか、ママから聞いてたとーちゃんの若い頃の激ヤン像とは懸け離れてるんだけど……。やっぱりその辺は大人の礼儀ってとこなのかな……)
ハルはレナに案内されたリビングに座り、少し緊張しながら部屋の中をぐるりと見回した。
(幸せな夫婦って感じ……。いいなぁ……)
殺風景なリュウの部屋とはえらい違いだと思いながら、レナが入れてくれたアイスティーを飲んだ。
「ハルちゃん、そんなに緊張しないでゆっくり寛いでね」
「あ、ハイ……。これ、良かったら……」
紙袋に入った果物をハルが差し出すと、レナは少し驚いた様子でそれを受け取った。
「わぁ……ありがとう!冷やして後で一緒に食べようね」
若いハルが妊婦のレナに果物を手土産に持ってくるあたり、これはリュウからの言い付けなのだなと、レナは笑みを浮かべる。
「せっかくだから、女同士いろんな話しようかな。私、ハルちゃんくらいの歳の頃には恋とは無縁だったから、そういうのやってみたかったんだ」
「恋バナ?」
「うん。ガールズトークって言うの?」
「ハルはそんなに話せるネタないけど……。とーちゃんしか好きになった事ないから……」
「そっか。じゃあ……私の友達、よんでいい?」
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