ガールズトーク、ボーイズトーク ②

 レナが連絡を取ってしばらくすると、マユがマコトを連れてやって来た。


「今日はシンヤ打ち合わせで出掛けてるから、女子会だけどマコト連れてきた」

「いいよ、マコトくんは赤ちゃんだもん」


 マユはハルの顔を見ると、ニコッと笑った。


「あなたがハルちゃん?」

「ハイ……はじめまして、宮原 波琉です」


 ハルが緊張の面持ちで挨拶すると、マユはマコトをラグの上に座らせて、ハルの手を握った。


「かわいい!私、三浦 麻由。この子は誠。よろしくね!」

「こちらこそよろしくお願いします……」


 マユはどうやらハルの事をすこぶる気に入ったようだと思いながら、レナはマコトを膝の上に抱いて微笑んだ。



 昼食にレナの作ったパスタを食べながら、マユはマコトに離乳食を食べさせた。


「マコトくん、上手に食べるね」

「よく食べるよ。大きくなるわけだよね」


 ハルはかわいい口を一生懸命開けて次の一口をねだるマコトを見ながら、リュウとの間に子供ができたらこんな感じなのかな、と未来を想像する。


「いいなぁ……。優しい旦那様と、かわいい赤ちゃん……」


 ポツリと呟くハルを見て、レナとマユは思わず顔を見合わせて微笑んだ。


「ハルちゃんは早く子供が欲しいの?」


 マコトの口にスプーンを運びながら、マユが尋ねた。


「子供が欲しいと言うか……それより早く大人になりたいと言うか……」

「ハルちゃんは早くリュウさんと一緒にいられるようになりたいんだよね」


 レナの一言にハルは少し恥ずかしそうにうなずき、マユは驚いてスプーンを持つ手を止めた。


「リュウさんって……もしかして『ALISON』のリュウ?……って事は……」

「そう。ハルちゃんは、リュウさんの大事な未来のお嫁さんだよ」

「えっ?ちょっと待って……。ハルちゃん、まだ高校生だよね?」

「高1です。やっぱりおかしいですよね……」


 これが普通の反応なんだなと思いながら、ハルはため息をついた。


「いや……おかしいって言うか、ちょっとビックリしたけど……。なんでそういう話になってるの?」


 ハルは、リュウとの関係や小さい頃からずっとリュウを好きだった事、『ハルが大人になったらオレんとこ来るか?』とリュウが言ってくれた事、普段一緒にいられない分、夏休みの今はリュウの家に来て一緒にいる事などを話した。


「へぇ……ちょっと意外……。リュウってそういう優しいとこあるんだ。取材しててもリュウは余計な事は一切話さないから、もっとクールな印象だった」

「リュウさん、ハルちゃんには甘いよ。思ってる事は照れて素直に言えないみたいだけど」

「へぇ……それまた意外……」


 自分の食事をしながら、マユが心底意外そうに呟いた。


「やっぱり、18も歳が離れてるのにこういうの……おかしいのかな……」

「おかしくはないよ。世間には20も30も歳の離れたカップルはいるもん。ただハルちゃんがまだ若いからね。ハタチ過ぎたら、どうって事ないんじゃない?」


 マユの言葉に、ハルはため息をついてガックリと肩を落とした。


「あと4年ちょっと待たないと、ハタチになれない……。早く大人になりたいのに……」

「そんなに慌てなくてもいずれはなれるよ」


 レナは肩を落とすハルを見ながら、アイスティーのおかわりをグラスに注いだ。


「私なんか、高1の頃は恋とはまったくの無縁だったのに……ハルちゃんって大人……」

「レナは『恋の定義がわからない』の一点張りだったから。片桐はずっと、レナにフラれるのが怖くて片想いしてたんだよね」


 マユの言葉に、ハルは首をかしげた。


「恋の定義?」

「そう。レナ、この見た目だから昔からモテたんだけど……誰に告白されても断ってたの。その理由がそれ」

「恋ってなんだろうって……。ユウとは幼なじみで、小さい頃から一緒にいたからなのかな。ずっと一緒にいたいとか大好きだとかいう気持ちが、その時は恋に結び付かなかった。10年も離れて、また会って初めて、それが恋だったんだなって」


 穏やかに話すレナの顔を見ながら、ハルはルリカに聞いた幼い頃の自分の話を思い出す。


「とーちゃんがロンドンに行った時、ハルはまだ2歳だったけど、しばらくは毎日寂しくて、『とーちゃんに会いたい』って泣いてたって……ママが言ってた」

「かわいいなぁ……。そんだけ想われたら、リュウも幸せだね」


 マユにそう言われて、ハルはおもむろに首をかしげた。

 ハルはマユの言葉が心に引っ掛かり、すんなりと落ち着かない。


「とーちゃんは、ハルに想われ幸せ……なのかな……?」

「幸せだと思うよ。そうでなきゃ、大人になるまで待つとは言えないよ」


 ハルが大人の女になるまで何年も待つことは、大人の男のリュウにとって、本当に幸せだと言えるだろうか?

 ハルは大人の女であるレナとマユに、思いきって悩みを打ち明けてみようと、少しモジモジしながら話し始めた。


「でも……ママが『高校だけは卒業しなさい』ってハルに言ってね、とーちゃんは『それまでは間違っても妊娠なんかさせるな』って言われたの」

「まぁ……そうだろうね」

「ママはハルに、『妊娠さえしなければいいから、するなら避妊だけはちゃんとしなさい』って言うんだけど……『ハルが大人になるまでは妊娠させるような事はしない』ってママと約束したから、って言って……とーちゃんは、ハルには何もしない」


 ハルの話を聞いたレナとマユは、動揺を隠すようにアイスティーを飲んだり、グラスの水滴で濡れたテーブルを拭いたりした。


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