大人になりたい ③
「じゃあ、ハルちゃんには特別なんだね」
レナの言葉に、ハルは嬉しそうに笑った後、一瞬考えるようなそぶりを見せた。
「でも、ハルがまだ子供だからと思って合わせてくれてるだけなのかも……。いっつも、まだ15だからって言って子供扱いされるし……」
「んー?ホントにそうかな?試してみる?」
タクミはニヤリと笑って、さっきまでリュウが座っていたハルの右隣に座った。
「メグミさん、ハルちゃんの左隣に座って」
それから、さっきまでトモが座っていたハルの左隣にメグミを座らせた。
その左隣にはハヤテが座っている。
そして大きなテーブルを挟んで座っているレナには、そのままハルの向かいにいるように言った。
「3人が帰って来るだろ?そうすると、おそらくユウは、元のようにオレから見てあーちゃんの右隣に座るよね」
「まあ、そうなるよね」
「リュウとトモは自分の座ってた席が空いてないとなると、オレの予想では、あーちゃんの左隣にトモが座って、リュウはそのまた隣に座ると思う」
「うん。いつもそんな感じだな。端に座るのは、いつもユウとリュウだ」
「だろ?ちょっと、試してみようよ」
「何を?3人がどこに座るか?」
「いいからいいから。みんなは普通にしてて。あ、メグミさんは絶対ハルちゃんの隣から動いちゃダメだよ!!」
「ハイ……??」
状況がよく飲み込めなかったが、みんなはとりあえずタクミの言う通りにしてみる事にした。
「あ、戻ってきた」
部屋に戻って来ると、タクミの予想通り、ユウはレナの隣に座り、トモは反対側のレナの隣に座った。
リュウは自分の座っていたハルの隣が空いていない事を怪訝に思いながら、トモの隣に座る。
タクミはリュウに気付かれないようにニヤリと笑いながらハルの耳元で話し掛けた。
「ハルちゃん、こっちに来てから、リュウにどこか連れてってもらった?」
ハルが首を横に振る。
「とーちゃんずっと仕事だったから……」
リュウはタクミがやけにハルとの距離を詰めているのを見て、イライラしている。
(タクミのやつ、なんで急にハルの隣にいるんだ?……ってか、近過ぎんだろ!!離れろ!!)
リュウがイライラしている事に気付かないふりで、タクミは相変わらず近い距離でハルに話を続ける。
「もうすぐね、花火大会があるの。人が少なくて花火がキレイに見える穴場スポットがあるんだ。SNSのトークとかやってる?」
「うん」
「じゃあ、ID交換しようよ。詳しい場所とか日時とか、送ってあげる」
タクミとハルはスマホを出してIDを交換した。
ハルが急にタクミと連絡先の交換をし始めたのを見て、リュウは更にイライラして眉間にシワを寄せた。
(バカ!!なんで他の男に簡単に連絡先なんか教えんだよ!!)
タクミがハルにメッセージを送り、ハルがそれを確認すると、タクミが更にハルにくっつくようにして小声で耳打ちする。
「リュウ、その日の晩はスケジュール空いてるから、連れてってもらいなよ」
「うん、ありがとう」
リュウは座っている場所が離れている上に、タクミとハルが小声で話すので、二人がどんな会話をしているのかわからず、気になって苛立ちが抑えられない。
(一体、何話してるんだ?タクミ、ハルを狙ってんのか?!そんで口説いてんのか?!ハルも少しは嫌がれよ!!)
「リュウがいない時は何してるの?」
「掃除とか洗濯とか夏休みの宿題とか……。あとはテレビ見たりスマホでゲームとか……。夕方になったら晩御飯の支度して……」
ハルが答えると、タクミはハルの頭を撫でた。
「かわいいなぁ、ハルちゃん。オレ、こんなお嫁さんが欲しい。オレのお嫁さんになる?」
さっきまでハルの耳元で小声で話していたタクミが、急に周りにも聞こえるようにハッキリそう言うと、離れた場所でずっとイライラしながらタクミとハルの様子を窺っていたリュウの我慢の糸が切れた。
「ハル!!こっち来い!!」
「え?」
「いいから早く!!」
ハルが首をかしげながら立ち上がりそばに行くと、リュウは強い力でハルの手を引いて、膝の上に座らせた。
「え?とーちゃん?!」
リュウは驚くハルをタクミから隠すように抱き寄せ、タクミを鋭い目でにらんで低く呟く。
「タクミ……手ぇ出すな。ハルはオレのだ」
激ヤン時代を彷彿とさせる眼光の鋭さで凄むリュウを見て、ハヤテとメグミは驚き、ユウとレナは顔を見合わせ、タクミとトモがたまらず吹き出した。
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