大人になりたい ②

 ユウたちがハヤテの新居に到着した時、トモとタクミは既に部屋の中にいた。

 部屋は爽やかなグリーンを基調としたインテリアで統一され、テーブルには新妻のメグミの料理がずらりと並んでいる。


「わぁ……新婚さんの部屋って感じだ」

「マジで広いな!」


 ユウとリュウは珍しそうに部屋を見回した。

 レナは『アナスタシア』のショップ袋をユウから受け取り、ハヤテに差し出した。


「ハヤテさん、これ……良かったらお二人で使って下さいね」

「ありがとうございます。早速開けさせてもらってもいい?」

「どうぞ」


 ハヤテは袋の中から取り出した包みを開いて、嬉しそうにメグミを手招きした。


「メグミ!ほら、こんないいのもらったよ!!こっちおいで!」


 グラスの用意をしていたメグミが、手を止めてハヤテのそばにやって来た。


「あっ!これ、CMで……!」


 ユウとレナが『アナスタシア』のCMで共演した時に着ていた物とは色違いのルームウェアを包みから取り出して、ハヤテとメグミは嬉しそうに笑った。


「ありがとうございます!!私、『アナスタシア』の服が大好きで、これ、ずっと欲しかったんです!大事に使わせてもらいますね」

「喜んでもらえて良かったです」


 レナとメグミが笑って話しているのを見て、メンバーたちは楽しそうにしている。


「あーちゃん、良かったねぇ、嫁友だ」

「メグミはオレの3つ下だから、片桐さんよりひとつ歳上かな。歳も近いし、仲良くしてやってね」


 ハヤテはそう言ってから、遠慮がちにリュウのそばでかしこまっているハルに気付いた。


「ハルちゃんだよね。はじめまして、ハヤテです。それからうちの奥さんのメグミです」

「タクミでーす。よろしくハルちゃん!」

「は、はじめまして、宮原 波琉です」


 緊張の面持ちで慌てて頭を下げるハルを見て、ハヤテはにっこりと笑った。


「そんなに緊張しないでいいよ。ゆっくりしていってね」

「ハル、久し振りだなぁ。元気だったか?」

「あっ、トモちゃん!久し振り。元気だよ。」


 昔から知っているトモの顔を見て少しホッとしたのか、ようやくハルが笑った。

 トモは、リュウが手土産のフルーツケーキをメグミに渡しに行った隙に、ハルに耳打ちする。


「ハルの長年の夢が叶いそうなんだって?」

「ハルが大人になったらだって……。トモちゃんは何歳からが大人だと思う?やっぱりハタチかなぁ?」


 ハルに尋ねられ、トモは自分のハタチの頃を思い出す。

 ちょうどハタチの頃、初めて本気で、アユミに恋をしていた。


「ハタチか……。オレのハタチの頃なんて、中身は全然大人でもなかったな。まぁ、今でもちゃんと大人になれてるかって言われたら自信ねぇけど。年齢より中身が問題なんじゃね?」


 トモが答えると、ハルはため息をついた。


「それじゃいつになるかわかんないよ。ハル、早く大人になりたいの」

「なんでそんなに早く大人になりたいんだ?」

「だって……早くとーちゃんとずっと一緒にいられるようになりたいし……。それに……」


 ハルは急に恥ずかしそうに口をつぐんだ。


「それになんだ?」

「……ハルはまだ15だから、大人になるまで待ってろって……。とーちゃん、キスもしてくれない……」

「えぇっ?!マジか……!!」

「うん。ギューッて抱きしめたり、頭撫でてくれたりはするよ。あと、一緒に寝てくれる」

「えっ?もしかして……一緒に寝ても、なんもしねぇの?」

「手は繋いでくれる。あ、たまに腕枕もしてくれるよ」

「アイツ、どんだけ真面目なんだ……。オレは絶対無理だな……。耐えられん……」


 思っていたよりずっと、リュウがハルを大事にしている事にトモが驚いていると、ハヤテと話していたリュウが戻ってきて怪訝な顔をした。


「なんだトモ……。ハルに変な事吹き込むなよ」

「吹き込まねぇよ!!」


(ってか、どちらかと言うと吹き込まれたのはオレの方だよ!!)



 それから、みんなでメグミの手料理を味わいながら、いろんな話をして楽しく過ごした。

 しばらくするとリュウが立ち上がり、ユウに車のキーを貸してくれと言った。


「タバコか?オレも行くよ。トモは?」

「じゃあオレも」


 ユウとトモも立ち上がると、ハヤテが笑う。


「悪いな、うちは誰もタバコ吸わないから」

「いや、レナもいるしな」


 3人が外に出ると、タクミが楽しそうに笑いながらハヤテに話し掛けた。


「ハルちゃんといる時のリュウ、なんかいつもと違うね」

「オレも思った。なんて言うか……優しいと言うか、穏やかと言うか」


 タクミとハヤテにそう言われて、ハルは首をかしげた。


「そうかな……?いつもあんな感じですよ」


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