大人になりたい ①
翌日。
『ALISON』は事務所のスタジオで、アルバム収録曲のライブ用アレンジなど、ライブに向けての調整をしていた。
休憩中、メンバーたちはコーヒーを飲みながら、ハヤテの新居訪問の話題で盛り上がる。
「新居祝いは何がいいかな?」
「新婚さんだからなぁ。お揃いの食器とか?」
「掛け時計なんてのはどうだ?時間が来ると、人形とかがクルクル動いて音楽鳴るやつ」
「そんな気を遣わなくてもいいよ。結婚のお祝いはしっかりといただいたから。手ぶらでいいから気軽に来て」
メンバーたちがそんな話をしていると、ずっと黙って聞いていたリュウが、ためらいがちに口を開く。
「あのさ、ハヤテ……一人、連れてっていいか?」
「ん?誰を?」
ハヤテが聞き返すと、リュウはボソボソと答える。
「夏休みにうちに来るって約束だったからさ……昨日から……うちに、来てんだよ」
「だから、誰が?」
ハヤテは歯切れの悪いリュウの返事に首をかしげて、もう一度聞き返した。
「……ハル……」
「ああ、姪っ子のハルちゃんか。たしか、リュウのお姉さんの娘だっけ?」
「まぁ……そうなんだけど……」
相変わらずゴニョゴニョと小声で答えるリュウを見ながら、トモがニヤニヤしてユウに耳打ちする。
「ユウ、見てみ。リュウ、前ならハルの事、普通に姪っ子って言ったじゃん?でもさっきから聞いてると、一度も言わねぇだろ?」
「そう言えば……。でもなんで?」
「アイツ、本気でハルに惚れてる」
「えっ?!いつの間にそんな事になってんの?」
驚くユウに、トモは嬉しそうに話を続ける。
「ハルの大事さに気付いたんじゃね?でもまだ彼女とも言えねぇんだ。ハル、まだ15だろ?ハルが大人になるまで待つんだってさ」
「リュウは気が長いんだな……。ってか、大人なのか……やっぱ真面目か?」
「そんだけ大事なんだろ」
スタジオを出た後、ユウは誰かに肩を叩かれ振り返った。
「リュウか。お疲れ。そういや、ハルちゃん遊びに来てるんだな」
「ああ……。普段はあまり一緒にいてやれないから、夏休みくらいはと思ってな……」
リュウは相変わらず照れくさそうにしている。
「ハルとゆっくり向き合ってみる事にした」
「そうか……。そう思えたって事は、リュウも前に進めたんだな」
ユウがそう言うと、リュウは穏やかに微笑んだ。
「不思議なんだけど、ハルと一緒にいると落ち着くしな。ハルを幸せにしてやれんの、オレだけなんだってさ。それも幸せだと思う。まぁ……ハルが大人になるまで待つつもりだけどな」
「気が長いんだな」
「そうでもねぇ……。でも、ゆっくり行くさ」
「ハルちゃんの花嫁姿、楽しみにしてる」
「気長に待ってろ」
少し照れくさそうに、でも、とても幸せそうに笑うリュウを見て、ユウも幸せな気持ちで微笑んだ。
(リュウも自分の幸せを見つけたんだな……)
次の休みになり、ハヤテの新居訪問の日がやって来た。
お昼頃、ハヤテがトモとタクミを迎えに行き、ユウが車でレナを連れて行くついでに、リュウとハルを一緒に乗せて行く事になった。
お昼前に車で自宅を出たユウとレナは、リュウのマンションに向かいながら、ハルと初めて会う事を楽しみにしていた。
「ハルちゃんってどんな子だろ?」
「リュウに写真見せてもらった。今時の女子高生って感じかな。かわいらしい子だったよ。リュウから聞いた感じでは、普段は年相応ってとこなんだけど、内面はちょっと大人っぽいのかなぁ」
「将来はリュウさんのお嫁さんになるの?」
「ハルちゃんの小さい頃からの夢を叶えて幸せにしてあげられるのは、リュウしかいないから」
ユウの車がリュウのマンションに到着すると、後部座席にリュウとハルが乗り込んだ。
「ユウ、わざわざありがとな」
「いや、ちょうど通り道だし」
「ハル、ユウと奥さんに挨拶しな」
リュウに促され、ハルははにかみながらペコリと頭を下げた。
「はじめまして、宮原 波琉です。よろしくお願いします」
「ユウです。こちらこそよろしく」
「レナです。よろしくね、ハルちゃん」
いつもよりソワソワしているハルを見て、リュウが笑った。
「なんだ?ハル、緊張してんのか?」
「だって……。いつもはテレビで見てる人達が目の前にいるから……」
「オレもテレビには出てるぞ?」
「とーちゃんはまた別だもん。ちっちゃい頃から見てる人をテレビで見てる」
「あ、ハルちゃんの気持ちわかる」
レナがハルの方を見て笑ってそう言うと、ハルもにっこりと笑った。
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