隠していた本心 ③
翌朝。
リュウは布団の中で、モソモソと寝返りを打った。
その腕の中には、温かく柔らかい感触がある。
「んー……」
リュウは夢うつつにそれを抱きしめ、たった一度だけ抱きしめ合った彼女の小柄な体の感触を重ねた。
(アユミ……)
若かったあの日のように、彼女の面影が閉じたまぶたの裏に浮かぶ。
(アユミ……オレは……)
「苦しいっ!苦しいよっ、とーちゃん!!」
(……『とーちゃん』……?)
リュウの腕の中で、息苦しさに耐えかねたハルがバタバタと暴れだすと、リュウはゆっくりと目を開いた。
自分がハルを抱きしめている事に気付くと、大きく目を開き、慌ててその手を離した。
「ハル?!なっ……なんでオマエ……!!」
「もう……とーちゃんを優しく起こそうと思って来たんだよ」
「なんだよ優しくって……」
ハルは上目使いに見上げ、リュウの唇を人差し指でそっと押さえた。
「んー?添い寝しておはようのちゅー?」
リュウはその手を掴んで振り払う。
「このバカ……!!マセガキ!!」
「何よ……ハルの事、ギューッてしたくせに……。そんなにハルが好き?」
「それは……!はぁ……。もういいや。とにかくあっち行け」
リュウが布団から追い出そうとすると、ハルは必死でその手にしがみついた。
「やだ。今日はハルと遊んでくれるんでしょ?夕べ約束したもん」
(コイツ……体はでかくなっても、中身は子供の頃と一緒じゃねぇか!!)
リュウは呆れて、抵抗するのをやめた。
「とにかく……オレはまだ眠い。もう少し寝かせろ」
「じゃあハルも一緒に寝る。大人しくしてるからいいでしょ?」
「あー……もう好きにしろ。寝込み襲うなよ」
「はーい。我慢する」
「我慢するって……」
リュウが寝返りを打って背中を向けると、ハルはリュウの背中にしがみついて、ぴったりと寄り添った。
(寝れねぇっつーの……。コイツ、体だけは大人になってるって自覚ねぇのか?それともわざとか?まぁ……ハルに何されても欲情したりしねぇけどな……多分……)
しばらくすると、リュウが寝息をたて始めた。
ハルは愛しそうにリュウの背中に頬をすり寄せて、両手でギュッとリュウの体を抱きしめた。
「だーい好き……」
甘えた声で小さく呟いて、額をリュウの背中に押し当てる。
「アユミって誰よ……」
ハルの小さな問い掛けに、リュウから返ってくるのは静かな寝息だけだった。
(恋人とか……いるのかな……)
どんなに頑張っても、18も離れた歳の差が縮まる事はない。
血が繋がっていないとは言え、リュウにとって自分が姪のハルでしかない事も、いやと言うほどわかっている。
リュウは身内としての愛情で、小さな頃からハルを大切に見守り、かわいがってきた。
どんなに大人になったとしても、リュウはきっと子供扱いをするのだろうとハルは思う。
また寝返りを打って、向かい合ったリュウの寝顔を、ハルはじっと見つめた。
そしてリュウを起こさないように、ほんの一瞬だけ、その柔らかい唇で、初めてリュウの唇にそっと触れた。
「リュウトのバカ……。もう昔みたいに子供じゃないもん……」
ハルはため息混じりに小さく呟いて、大好きなリュウの広い胸に顔をうずめた。
(こんなに好きなのにな……)
再び目を覚ましたリュウの目に、リュウに腕枕をされて眠っているハルの姿が映った。
(な……なんだこれ……。いつの間に……)
一瞬驚きはしたものの、ハルのあどけない寝顔を眺めて、リュウは微笑んだ。
(こうしてるとかわいいもんだな……。よく寝てるし……たまには甘やかしてやってもいいか)
リュウは気持ち良さそうに眠るハルの頭を、大きな手で愛しそうに撫でた。
優しいその手の温もりに、ハルは眠りながら微笑んだ。
「とーちゃん……だーい好き……」
寝ている時でさえ、幼い頃から変わらないハルの言葉に、リュウは苦笑いを浮かべた。
(まったく……。まだまだガキだな)
ハルの寝顔を眺めながら、リュウは自分の若かった頃を振り返る。
ハルと同じ歳の頃、リュウは高校へは行かず、サツキの美容室を手伝いながら、美容師になるために通信の美容学校で勉強していた。
いつもまわりには適当に体を重ねるだけの相手が何人かいて、リュウも相手の女の子たちも、お互いにそれ以上を求めなかった。
(中学時代は激ヤンだしな……。今更だけど、よく考えたら荒んだ少年時代だった……。好きでもなんでもねぇ女と、しょっちゅうやりまくってたとか……。思春期の男なんて、ホント、ロクなもんじゃねぇな)
中学から別の学校に行ってずっと会わなかった彼女と店で偶然再会した頃、まだ幼かったハルが将来ヤンキーになったらどうしようと、リュウはいつも心配していた。
(今のところ、まともな女子高生だな。まぁ……ちょっと大人ぶってると言うか、マセてるとは思うけど……同じ歳の頃のオレに比べたらかわいいもんだ)
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