追憶と現実の狭間で ③
トモがかつて初めて本気で恋をした彼女、
別の中学に進んだ彼女が、小学校を卒業した後に母親の離婚で苗字が『
もう会えないと思っていたアユミに会えるかも知れないと突然言われたトモは、戸惑い視線をさまよわせている。
「いや……。オレ、小学校違うし」
「二次会くらいなら、紛れ込んでも文句言われねぇよ。有名人だし?」
「でもな……」
トモはうつむいて何かを考えている。
「じゃあさ……久し振りに実家帰れば?オレ、車で行くつもりだしさ。一緒に乗ってけよ」
「そう言えば最近帰ってねぇな……」
「一緒に帰るか?」
「そうだなぁ……。考えとく」
結局、トモは別の用があるからと言ってリュウの誘いを断り、リュウ一人で地元に帰る事になった。
リュウは車を走らせながら、一人考える。
(やっぱ、会うのが怖かったのかな……)
『初恋の想い出はキレイなままで残しといた方がいいじゃん。オレの中では、今もあの頃のかわいいアユちゃんのままでさ』
トモはそう言って笑っていた。
たしかにトモの言う事も、一理あるとリュウは思う。
だけど、そのキレイなままの想い出が枷になって、前に進む事ができないのなら話は別だ。
リュウ自身もまた、あれから適当な相手と適当な関係にもなりはしたが、本気で恋をしていない。
(トモだけじゃく、今の現実を受け入れねぇといけねぇのは、オレも同じかもな……)
同窓会に彼女は来るのだろうか?
もし会えたら……今の自分は、彼女にどんな言葉を掛けるのだろう?
その頃、トモはユウと一緒にレナの見舞いに訪れていた。
「片桐さん、具合どう?」
「あっ……今日はトモさんも来てくれたの?」
レナは少し驚いた様子でトモの顔を見た。
「今日は休みだったから。久し振りに片桐さんの顔みたいなーって」
「ハヤテさんの結婚式で会ったから、そんなに久し振りでもないんじゃない?」
レナが首をかしげると、トモはニコニコ笑いながら顔を近付けた。
「いやー、オレは片桐さんの顔なら毎日でも見たいよ。ずっとこうして眺めてたい」
トモがそう言うと、ユウが殺気を漂わせてトモの背後に立った。
「トモ……オレの大事な嫁を口説くな」
ユウはトモの背後から、握りしめた両手でこめかみをグリグリやった。
「いってぇ……。こえーなあ、ユウは。意外とヤキモチ妬きなんだな」
「うるさい。そんな事言うやつは帰れ」
「ユウったら……。せっかく来てくれたのに、そんな事言っちゃダメでしょ?」
レナにたしなめられるユウを見て、トモはおかしそうに笑った。
「片桐さん、お母さんみたいだ。……ってか、実際お母さんなんだよな」
「まだお腹の中だけどね」
レナは優しくお腹を撫でて、母親の顔で微笑んだ。
「その子が生まれるまで、お腹の中で守れるのは片桐さんだけだからさ。立派なお母さんだ」
「トモもたまにはいい事言うんだなぁ」
「たまにはは余計だ」
軽口を叩きながらも、トモは仲睦まじいユウとレナの様子を見て、どことなく遠い目をして微笑んでいる。
ユウは今日のトモに、なんとなく違和感を覚えた。
しばらく3人で話した後、トモがイスから立ち上がった。
「じゃ、オレはそろそろ退散するかな」
「トモさん、わざわざ来てくれてありがとう。すごく楽しかった」
ベッドに横たわったレナがお礼を言うと、トモは笑って、両手でレナの右手を握った。
「オレは毎日でも会いに来たいんだけどさぁ……邪魔するとユウが怒るから……」
「トモ……またオマエは……」
ユウが背後で握りこぶしを構えて低く呟くと、トモは慌ててレナから手を離し、笑いながら素早くその場をすり抜けた。
「冗談だよ。ユウ、貴重な夫婦水入らずの時間を邪魔して悪かったな。それじゃ、ホントに行くわ。またね、片桐さん。お大事に」
「うん。ありがとう」
トモが手を振って病室を出ようとした時、ユウはどうしてもトモの事が気になって、後を追った。
「売店行くついでに、そこまで送るよ」
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