『コンポジノビオトープ』

横山 睦 (むつみ)

コンポジノビオトープ


 なかかわず大海たいかいらず。



 小学生しょうがくせいのわたしが、どうしてもきになれない言葉ことばです。



 わたしは、この土地とちまれました。


 このまちひとたちにそだててもらいました。


 だから、ずっとこの故郷ふるさと大好だいすきです。



 よくあそんでもらっていたとなりいえのおねえさんは、とおくの都会とかいってしまいました。



 わたしの将来しょうらいゆめは、このまち出会であったひと結婚けっこんして、おばあちゃんになってもこのまちむことです。



 いつもあそんでいるのは、おなじクラスでなか男子だんしの3にんです。



 スポーツが得意とくい女子じょしから人気にんきのコウタ。


 野球やきゅうつよ高校こうこうきたい、とっていました。


 小学生しょうがくせいのわたしにはくわしくわからないけれど、このまち高校こうこうでは駄目だめなの?


 商店街しょうてんがいのおっちゃんたちもみんな応援おうえんしてくれるのに。




 学校がっこう成績せいせきいシューヘイは、このまち町長ちょうちょう一人息子ひとりむすこです。


 シューヘイのおじいちゃんもこのまちえらひとだから、きっとこのまちからることはないとおもいます。




 もう1ひとりは、おとこというよりおんなっぽいナツキ。


 母子家庭ぼしかていでおとうさんがなくて、おばあちゃんとおかあさんといもうとおんなひとだけのいえらしているから、ナツキはどこかおとこらしくない雰囲気ふんいきです。



 コウタ、シューヘイ、ナツキ。


 そして、マナミとばれているわたし。



 11さいの4にん体験たいけんしたわすれられない初夏しょかおも





 ゲンジボタルのながぼしのようなひかり


 うつくしいよるもりあらわした、幻想的げんそうてき写真しゃしん




 まち公民館こうみんかん交番こうばん入口いりぐちにある掲示板けいじばんに、その写真しゃしんったポスターがられることになりました。



『この写真しゃしんは、比較明ひかくめいコンポジット(合成ごうせい)で撮影さつえいされたものです』


実際じっさいのホタルは少数しょうすうしかいません』



 ポスターに注意喚起ちゅういかんき言葉ことば目立めだつように太字ふとじかれてありました。




「またらされていたっておとうさんからいたよ。ゴミもててあったって」


「これだから、よそものきらいだ!」


 あさ学校がっこうかう途中とちゅうでポスターを見た、シューヘイとコウタがホタルのはなしをしていました。わたしとナツキは2ふたり会話かいわだまっていていました。


 シューヘイの父親ちちおや町長ちょうちょうであり、町中まちじゅうから様々さまざま情報じょうほうあつまります。


「ほんと、ムカつく!」


 コウタは、ホタルをひとのマナーにおこっていました。




 有名ゆうめい写真家しゃしんかがこのまちのホタルを撮影さつえいした作品さくひん発表はっぴょうしたとき、わたしはねるほどうれしかったです。


 町中まちじゅうひとたちもよろこんでいました。


 でも、まち有名ゆうめいになることで残念ざんねんなこともこりました。


 写真しゃしんのようなホタルをられると期待きたいしてひとが、ホタルのすくなさにガッカリして、かえっていきました。


 それだけではなく、もりらし、ゴミをて、このまち自然しぜん平気へいきこわそうとします。




「わたしもホタルをるマナーのわるひとがどうしてもきになれない。わたしたちでなに出来できないかなぁ?」


 わたしは勇気ゆうきして、はなしをしました。





 学校がっこう授業じゅぎょうわったあといえにランドセルをいてから、わたしたちは集合しゅうごうしました。



バサミも2つってきた」


「シューヘイがっているのは、バサミっていう名前なまえなの?」


 わたしは、ゴミをはさ道具どうぐ名前なまえはじめてりました。


「へぇー、うんこをはさむやつだとおぼえてた」


「うんこはさむやつ!」


 わたしとナツキは、コウタの言葉ことばにゲラゲラとわらいました。


むかし木炭もくたんはさんでいたって、おじいちゃんがおしえてくれたんだ」


「さすが、シューヘイは天才てんさいだね!」


「いや、むかしのことをおしええてもらっていでいるだけだから」


 ナツキからめてもらったシューヘイは、わたしをながら、なぜかすこれているようでした。


「よーし、ゴミひろ大作戦だいさくせん開始かいしだぜ!」


 コウタのごえとともに、わたしたちはもりなかはいっていきました。





 ホタルの場所ばしょまでのみちのりをゴミをひろってあるきました。


 コンクリートで舗装ほそうされていないわだちころんでもいたくないやわらかい地面じめん自由じゆうびたえだ木々きぎとりごえそらからひかり


 わたしはこのもり大好だいすき。




 あるくのがおそいわたしをいて、うし姿すがたえなくなるほどさきすすんでいくのはコウタとシューヘイ。


 体力たいりょくがない女子じょし気持きもちをわかってくれて一緒いっしょあるいてくれるナツキ。


  将来しょうらい、わたしはどんなひときになるんだろう。


 そんなことをかんがえていたときでした。




「うわぁーー!!」




 突然とつぜんさけごえこえてきました。


 コウタとシューヘイがはしってもどりながら、わたしとナツキに大声おおごえつたえてきました。



「し、死体したいがあった! はやげろー!」





 わたしたちは、無我夢中むがむちゅうはしりました。


 コウタとシューヘイの恐怖きょうふおびえた表情ひょうじょうは、2ふたりうそをついているようにはおもえませんでした。


ふとえだにロープがくくりつけてあって、そこにおとこひとが……」


 シューヘイがさきほど状況じょうきょうはしりながら説明せつめいしてくれました。


「マジでやべぇって! マナミはやはしれ!」


 普段ふだん強気つよき性格せいかく物事ものごとからげることをしないコウタが、一番いちばんあしおそいわたしのずかしがることなくにぎるるとってくれました。




 もりからたわたしは、まだドキドキがおさまりませんでした。


内緒ないしょだからな、だれにもうなよ!」


 コウタの言葉ことば賛成さんせいでした。


 もり死体したい発見はっけんしたなんてこわくて、だれにもうつもりはありませんでした。




 その、そのままみんなとわかれて、わたしはいそいでいえかえりました。


 夕食ゆうしょくとき食欲しょくよくがありませんでした。


 お風呂ふろはいとき布団ふとんときもわたしはこわくて、ずっとおかあさんと一緒いっしょでした。





 こわゆめたわたしは夜中よなかきてしまいました。


 すると、となりているはずのおかあさんがませんでした。


 がると、おかあさんとおとうさんの会話かいわこえてきました。




「あなた、もりどもたちに姿すがたられたの?」


かおられていないから気付きづいていない。大丈夫だいじょうぶだ」


町長ちょうちょうさんも協力きょうりょくしてくれているんだから、正体しょうたいがバレないようにね」


「わかってるよ」




 わたしはいてはいけないことをいてしまったとおもい、そっと布団ふとんもどりました。


 どういうこと?


 まさか、おとうさんが犯人はんにんなの?





 あさ、わたしはしずかにいえ学校がっこうかいました。


 通学路つうがくろで、コウタとシューヘイとナツキの3にんいましたがだれしゃべりませんでした。


 わたしがかなしいかおをしていると、最初さいしょに、シューヘイがはなはじめました。


昨日きのうの、あの、死体したいの……」


「それ以上いじょううなよ!」


 コウタはシューヘイにかってつよ口調くちょういましたが、それでも、シューヘイははなしつづけました。


「ちゃんとはなしいてよ。今日きょう新聞しんぶんんでも、まちひとたちからも、死体したいつかったという情報じょうほうは1つもいんだ。おかしいよ。昨日きのうのあのときぼくこわくてすぐにはしってげたから、一瞬いっしゅんしかていないけど、あの死体したいあしってどうなっていたかな……?」


あしなんておぼえてないよ! まさか、死体したいあしかったらおれたちは幽霊ゆうれいたってうのか?」


「あっ!」


 突然とつぜん、シューヘイとコウタのはなしいていたナツキがこえしました。


「なんだよ、ナツキ」


むかし、おばあちゃんからいたことがある。あのもりには武者むしゃ幽霊ゆうれいるから近付ちかづくなってっていたのをおもした」


武者むしゃ幽霊ゆうれいってなんだよ! おれたちが昨日きのうたのは武者むしゃじゃねえぜ」


「その武者むしゃはなしはわかんないけど、もう一度いちどもり死体したいがあった場所ばしょこう」


「どうして、またくんだよ!」


 コウタはイライラしていましたが、わたしは自分じぶん気持きもちをつたえました。


「わたしも、もう1かいきたい」


 本当ほんとうにわたしのおとうさんが関係かんけいしているのかたしかかめたいとおもったからです。




 わたしたちはもりなかはいりました。


 昨日きのう、コウタとシューヘイが死体したいたという場所ばしょきました。




 でも、ロープも死体したいもどこにもありませんでした。




 神隠かみかくし?


 それとも、幽霊ゆうれい


 このまちなにこっているの?




 もしかしたら、わたしのおとうさんが死体したいかくしたかもしれないとおもったわたしは、昨日きのうよるいた会話かいわを3にんはなしました。





自分じぶんたちで調しらべるしかない」


「でも、どうやって調しらべるんだ?」


 コウタの質問しつもんにシューヘイはこたえられませんでした。


関係かんけいないかもしれないけど、調しらべる方法ほうほうだったらまち図書館としょかんがあるよ。歴史れきし資料しりょうもあるし」


 ナツキの提案ていあんした図書館としょかんに、わたしたちはくことにしました。




「そういえば、幽霊ゆうれいおもしたんだけどさ」


 図書館としょかん途中とちゅうで、コウタがくちひらきました。


商店街しょうてんがいのおっちゃんが小学生しょうがくさいころに、あのもりかみながおんなひと幽霊ゆうれいたってうのをいたことある」


 このまちには、わたしたちのらないことがまだたくさんあるのかもしれないとおもいました。




 シューヘイにわれたとおりに、わたしたちは図書館としょかん調しらべました。


なにかわかった?」


「45年前ねんまえに、あのもりあそんでいたおとこがけからちてくなるという事故じこがあった」


 わたしの質問しつもんに、むかし記事きじ指差ゆびさしながらシューヘイがこたえました。


「じゃあ、むかし商店街しょうてんがいのおっちゃんがたっていう幽霊ゆうれい本物ほんものだったの?」


「いや、それはおんなひと幽霊ゆうれいたっていうからちがうとおもうけど……」


「おーい! あのもりには埋蔵金まいぞうきんがあるかもしれないっていう伝説でんせつもあるんだってさ」


 このまちについて調しらべていたコウタがおおきなこえいました。


「だから、武者むしゃ幽霊ゆうれいなんだ」


 ナツキのおばあちゃんのはなしともつながりました。



 シューヘイがふかかんがえたあと、わたしたちにいました。


「たぶん正体しょうたいがわかったかもしれない」





「どういうこと?」


おとこ事故じこがあったあとおんなひと幽霊ゆうれいはなしてきて、埋蔵金まいぞうきんはなしひろまったあとに、武者むしゃ幽霊ゆうれいはなしてくるってこと」


「まだ全然ぜんぜんわからない」


幽霊ゆうれいもりなんてきたくないでしょ。あのもりはいらないように、だれかが幽霊ゆうれいはなしつくったのかもしれない」


「そのはなしと、おれたちが死体したいえたのは関係かんけいあるのか?」


いま状況じょうきょうてない?」


「あっ!」


 わたしたちはおたがいのかおました。



「ホタルをひとのマナーがわるくて、まちひとたちがこまってる!」











 20年後ねんご



世界せかいの「MUSASHINO」プロジェクト!』


 セレモニーにわたしは招待しょうたいされました。


 今も、このまちにはつたわっています。




「ねぇ、ってる? このまちに4にん妖精ようせいはなしたらしあわせになるんだって」


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『コンポジノビオトープ』 横山 睦 (むつみ) @Mutsumi_0105

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