第21話 翼を折られたエンジェル

「ケンカになる前に、逃げよう。」

「エリスちゃんは?」

 俺は男だ。女の子一人救えなくてどうする。

 エリスの手を引いた。

 俺と、エリスと、次女の3人は、駆けて神様のいる場所を目指す。

 にゃ~、黒猫も一緒だ。


 一方、両親と長女は、天使の観察にでも出かけたのか、その場にはいない。

 あんな中堂々と悪態ついて、よく平気なものだ。

 それだけ、神や天使というのは心が広いのだろうか。

 長女が言う。

「あの、気味悪い声だけど、わりとくせにならない?」

「ホラーみたいでな、母さん。」

「いい気味だわ、誰が入っているのかしら?」

 父は、「おっ、向こうの方だ。黒いのもいる。」

「記念に見てこうよ。」

「あのこたちは、どこにいったのかしら? ・・・・・・放っておいても大丈夫よね。」

 そこに、屈強な男天使たちがやってきた。

人間「なんだ、なんだ。我々は客だぞ。」「威圧しないで。」

天使「懲罰炉に入れようか?」

天使「イヒヒヒヒ。」

 しかし、両親と長女は無関心だ。

 それを見て、男天使は、ホワイトホールに3人吸収した。

 長女は「なに、予告なしなの」父「礼儀を知らないのか」母「この悪魔!」

 天使たちは、お手上げとばかり顔を見合わせると、3人まとめて、異次元の融合炉に放り込んだ。


融合炉内。

『あ、おばあちゃん。おじいちゃんも。あれ、なんで無口なの?』

『出たわね』

『ああ』

『これはまさしく、おばあちゃんの暗黒!』

『つらかったよ~。』チリーン、不思議な音が鳴る。

『怖い、怖いよ~。』『なにこれ、もういや、死にたい』

『誰一人、無事に消しはしないよ~』

 みんな、言葉の語尾から、歪んでいく。そして、存在感も消えていき……。


 一方俺たちは、最終地点に到達した。

「二人ともありがとう。菩薩様、エリスが参りました。」

 そういうと、御殿から菩薩様の仏頭が現れた。顔は3mはあるだろうか。

「ほう、心清らかなるものたちよ。下界の幸せを奪いまことに申し訳なかった。」

 ほら、二人ともお辞儀して。

「これでおしまい。」

「終わりか。」

「だねっ。」

「クリアー」と、俺が叫ぼうとしたとき、菩薩様は話しかけてきた。

「ときにエリスよ。お前の羽はどうした? 天使の証じのはずだが。」

 エリスは、大泣きに泣いた。悔しさがあふれ出す。

「すいません、菩薩様。……紛失してしまいました。」

「紛失? なくしたというのか?」

「はい。私の不注意です。「天界審判」にのっとって裁きを受けます。」

「まあ、待て。用事ができた。」

 菩薩様がそう言うと、異次元から融合炉がぐるぐると円を巻いてやってきた。

「暗黒を馬鹿にするものに、祟りあれ~」

 ばあさんの本気の暗黒だ!

「ふん、くだらぬ。」

 菩薩様には、何も通用しなかった。

「ばかな。」

「それも、お前らの業じゃよ。」

 それだけ言うと、菩薩様は御殿に下がっていった。

「この、出来損ない天使め!」

 エリスは身をかわす気力もない。でも、二人を守らなきゃ! エリスは、身を張って、二人をかばう。そこに、大天使ミカエル様がやってきた。天使、いや、エリスよ。貴様にも試練が必要なようだな。生きろ。と、ミカエルの瞑想のホワイトホールが、エリスの背中に羽を戻らせた。生え変わったのだ。

「ミカエル様!」

「ええい、うっとおしい。私は去るが、あとは一人でできるな。」

「はい、大天使ミカエル様!」

 エリスも、気力が戻った。さあ、あとは最後だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る