腕の中で (終)

「うう」


立てない。涙が止まらない。

そんなに呑んでないのに。


「軽子ちゃん」

「来ないで」


ろくでもない彼氏。

背中をさすられる。暖かい手。


「なに入ってきてるのよ。女子トイレよここ」

「ろくでもない彼氏なので、女子トイレぐらい余裕です」


「やめて」

「きもちわるくない?」

「あんたがきもちわるい」

「大丈夫。立てる?」

「人をかわいそうみたいに言わないで。ほんとにいや」


ゆっくり、立ち上がる。


「しにたい」

「最期は、僕の腕のなかでどうぞ」


やさしく、支えられる。


「おなか」

「うん?」

「おなか、さすって」


「ほぉれ。せんぱい。さすりさすり」

「うわっ。なんでいるのよ」


「しんぱいだからです」

後輩。泣きじゃくっている。


「せんぱいがしんぱいで、たちあがろうとしたけど、よっぱらってて、たて、なかったんですぅぅぅ。せんぱいいいい」


「おっ、と。さすがに二人は重たいよ?」

彼氏。

「ちょっと。後輩のおしりさわらないで」

「いや不可抗力」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る