第3話 裸の老人

日本国内での感染症も落ち着き、緊急事態宣言が解除された。

パチンコ店は一斉に営業を開始し、藤吉のしがない日々は元に戻っていた。

相変わらず、月々の小遣いを散財する日々。

消費者金融にまで手を出すことはなかったが、知人に金を借りることはしばしばあった。


ある日、藤吉に1本の電話が入る。


「もしもし、川野藤吉様のご携帯でしょうか。わたくし北銀行の山田と申しますが…。住宅ローンのご返済の件でお電話させて頂きました。今月のご返済なんですが、残高不足で引き落とし出来ない状態になっておりまして……。」


「そんなはずはない!」と、藤吉は電話口で息巻いたが、よくよく考えれば残高の把握などしていない。

家計の管理は妻に任せており、通帳も印鑑も全て妻の元だった。


「後で、ばあさんに聞いてみるから…。」


そう言って藤吉は電話を切り、昨日から暖めていたとされる海物語を再び打ちに戻る。

言うまでも無く





藤吉は負けた。





軍資金が尽き、日がある時間帯に藤吉は帰宅する。

既に銀行からの電話など忘れていたが、妻の顔を見て思い出した。


「そういえば、お前…」


電話の内容を伝えてから、一部始終が終わるまで、負の感情がふたりを襲う。



泣き出す妻。

動揺する藤吉。

怒り出す藤吉。

泣きながら怒り出す妻。

動揺する藤吉。



「この間、神仏統一教会の人が来てね。入会を勧められたのよ。私、始めはそんな気なかったんだけど、話していくうちにどんどん心許してしまって…。怒らないで聞いほしいんだけど…。佐伯って言う男に…私…その人と関係を持ったわ。関係って、抱かれたわけじゃないのよ。口と口が触れた程度だけど…。でもね、私、寂しかったのよ。あなたも家にいないじゃない。息子だって、頻繁に来るわけじゃないし。」


藤吉は言葉がでない。


「佐伯さんは、教会のお偉いさんでね、私を救いたいからって、いろいろなものを進められたわ。数珠だとか、印鑑だとか。最後は、お布施だって…。それで私…通帳のお金……ごめんなさい……。佐伯さんが言うなら信じたかったの…。佐伯さん、悪い人じゃないのよ。私が悪いの。ただ私…。今までの人生、本当にひどいものだったし…このまま…!!救われないまま…!!死んでいくなんて嫌だったのよ!!!!!」


「だからってお前…!!」

藤吉は後に続く言葉が見つからない。


一呼吸置いて、藤吉。

「それで…それでお前、金は…!?」


「明日…年金が振り込まれるじゃない…。」

「まさか、それだけか!?」

「そうよ…。」

「馬鹿野郎!!いますぐ、金返してもらえ!!連絡先よこせ!!」


力なくメモ紙を渡す妻。





”おかけになった電話番号は現在使われておりません”

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