15◆勇者消失d
「日輪、覚悟」
王の動きに対応し、四匹の強大な獣が俺に襲い掛かる。
深界生物をも葬るというその実力に偽りはなかった。
四匹の獣が巨体に似合わぬ神速で俺を囲う。
そして、猛火と豪雪を吐きかけ、その爪や牙を突き立てようとする。
その囲いの隙――獣たちが互いを攻撃がぶつかり合わないようにした間を走って抜ける。
深界生物相手なら力押しで問題なかったのだろうが、生憎と俺はヤツらとはちがう。
だが、強大な力で押し潰そうとしたのは、獣たちだけであった。
俺が攻撃をきり抜けた先には、白金の鎧を装備した兄貴が聖槍を手にまちかまえていた。
「しまっ」
兄貴は容赦なく、かつて紅き魔神を葬ったという聖槍を振るう。
目にも止まらぬ神速の突きを、俺は勘をたよりに避ける。
一発、二発、三発、四発……。
一発でも受ければ、鎧も着ていない俺はひとたまりもないだろう。そんな強力な連撃をかわし続ける。
かわしている最中に、俺は背後から大きな気配を感じとる。
振り返ると、そこには青龍が鋭い牙が立ち並ぶ大きな口を開けていた。
その喉の奥から赤いものが見えたとおもった瞬間、あたりが火炎につつまれた。
俺はそれを避けるが、兄貴はもろにそれに包まれた。
しかし、
炎の中から聖槍がくりだされ、火炎を回避することによってバランスを崩した俺へと襲い掛かる。
襲い掛かる穂先をみつめ、気迫をこめて両手の平をあわせる。すると、その間に輝く槍の先が挟み込まれた。
その動きに兄貴の目の色が変わった。
兄貴の槍を押す力と、俺の堪える力がわずかな時間均衡する。
だが、その均衡は脇から襲い掛かる白虎の巨大な爪によって崩される。
巨獣の爪から逃れるため、俺は槍から手を離すと距離をあけた。
「ひとすじ縄ではいかんようだな」
槍を構えなおした兄貴が改めて言う。
俺は自らの動きに違和感を覚えながらも、攻撃はかわせていた。
なにかの境地にたどり着けそうな心境だ。
だが、その境地とはなんなのか正体は掴めてはいない。
それが掴めなければ、おそらくはこの窮地からは逃れられない。
しかしながら、日乃国の王にして、四神の一角である日神を相手にそんな悠長な暇があるとも思えない。
「たいした逃げ足だ。まさか、それであの作戦を生き延びたのではないだろうな」
「ちがうさ。俺が生き残ったのは、他の奴らが俺を助けてくれたからだ。俺の実力は関係ない」
何度となく仲間に救われた命だ。その恩に直接応えることはできなかったが。
不意に兄貴はなにを思ったか、四聖獣をひっこめる。その場に発せられていた強大な気配が消える。
俺としては、いくら威力が高くても当たらない攻撃は怖くはない。そのことに気づいたのだろう。
「つまり、槍術に集中するってことか」
四聖獣に囲まれていたときよりも、対面する兄貴ひとりから感じるプレッシャーの方が大きい。
手にひとふりの刀もないことも、俺の窮地を際立たせている。
徒手で兄貴を止める術は俺にはない。
すなわち、このままでは俺は勝てないということだ。
当然、兄貴の作り出したこの閉鎖空間に武器などあるハズも無い。
いや、兄貴のマントを奪えるのならば、剣の十や二十はそのうちに収められているであろう。だが、それを行うのは容易ではない。
「捕獲できないのでは仕方あるまい。『神技・無限連槍』」
息のつく暇もない連続攻撃が再開される。
その速さは先程までの比ではなく、さらに狙いの分散された攻撃は、白刃獲りすることはできない。
それでも回避し続ける俺の身体に衝撃が走った。
見ると、俺の身体に大きな風穴が空いている。
――いつのまに!?
兄貴はゆっくりと、槍を引き戻す。
穴の空いた胸から、数瞬遅れで血がこぼれだす。
その血を見ながら、俺は兄貴が使った手口を察する。
光速に迫るほどの攻撃は、そのまま避けたのでは回避が間に合いようもない。
だから、俺は攻撃されるポイントを先読みし、攻撃が繰り出されると同時に回避行動をとらねばならなかった。
そして、それは肌から感じる兄貴の殺気を基点に行われていた。
故に兄貴は消したのだ。
槍の穂先に込められた殺気を。
無数に放たれた殺気に溢れた攻撃のなかに、たった一発だけ気配を絶った攻撃を織り交ぜたのだ。
わざわざ四聖獣を消したのも、みずからの殺気をクリアに感じさせる為だったのだろう。
俺が殺気に集中すればするほど、その一撃は見えなくなる。
そして、殺気がこもろうがこもるまいが関係なく、超高速で移動する槍のエネルギーは、対象に触れた瞬間にその力を爆発させたのだ。
つまり、俺の完敗ということだ。
「さらばだ、我が弟よ。せめて、やすらかに眠れ」
俺の血がついた槍を振るうと、兄貴はその両の目をとじる。
だが、俺の意識はまだ途絶えることはなかった。
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