13◆変質c
「なんだこりゃ!?」
眼前に広がる光景に火音が絶句する。
そこには漆黒の鱗に包まれた、異界の生物たちで溢れてかえっていた。
俺も火音も、攻撃以外には役立たずだ。
水仙のように隠れて進むことはできない。
気力をなくしたままの土星の援護は怪しく、学者である蚕に戦闘参加は期待できない。
「おい、ほかの道は?」
「大広間のまわりは中庭に囲まれておるさかい、まわったって変わらへん」
胸ぐらをつかむ火音に、蚕はあわてて説明をする。
「大広間に抜け道の類はないのか?」
一応、王族である俺は、日乃国の城にある抜け道のいくつかを知っている。
そこから推測して、この大広間にもそういったものがあるのではないかと希望を託す。
だが、蚕の答えは希望に添うものではなかった。
「そないあっても、一介の学者でしかないうちに教えられてるわけないやない。もっと偉い人でないと。それにそういうのって、城の外に通じてるものだから……」
「外までもどってる余裕はないな。くそっ」
このままじゃ、中庭を抜けて最終目的地には辿り着くことができない。
勇者が七人そろっていればこいつらを駆逐し、ごり押しで進むことができたろう。
だが、いまそれを言っても仕方がないことだ。
「ここはもう……」
俺は覚悟を決め、虚数空間への門を開けると、そこから神威をとりだす。
だが、ここで撃ってしまっていいのか。
生贄だけの問題じゃない。
「やはり、ここは使うしかないやろ、神威」
自らが生贄となるには不足であることを知らされている蚕は物見遊山気分だ。人命に対する倫理が低い。
「おまえ、そんなに神威にそんなに興味あるのか?」
火音が蚕にたずねる。
「とーぜんや、めっちゃ興味深いやん。
みなさん生贄って言うとりますけど、なんでわざわざ人間をあんな風に分解しとるんか、ぜんぜん理解へん。もう一回見せてもらえるなら、見せてほしいもんや」
「人間が死ぬんだぞ?」
「うちのせいやあらへん」
俺の言葉に彼女は平然と応える。
「んじゃ蚕、おまえが生贄になれ、ひょっとすれば、神様ってヤツに会えるかもしれねーぞ」
そう言って、火音は蚕の身体をその怪力で持ち上げた。
「ちょっと待ってーな。うちは勇者やないんや」
手足をバタバタと動かす蚕。
されど火音の豪腕から逃れる術はない。
「そこは頑張れ、これで成功したら儲けもんだな」
火音は、俺の持つ神威に蚕を強引に串刺しにする。
俺は火音の行動を目で追いながらも、それを避けることができなかった。
蚕を犠牲にすれば、犠牲をひとり減らすことができるなんて考えが反応を鈍らせたのかもしれない。
「はわわっ」
蚕を貫いた二叉の黒槍は、彼女の白衣にふたつ赤い染みをつくる。
蚕は自らの傷口を押さえ、神威を引き抜こうとするが、身体に深く刺さった槍が簡単に抜けるわけがない。
仮に抜けたところで出血多量によるショック死がまっている。そのことを彼女は知らないのだろう。
白衣の赤い染みは徐々に大きくなったが、神威による分解はいつまでもはじまらない。
その代わり、蚕は天を仰ぎ口を限界以上にひらくと、そこから自身の臓物を溢れさせた。
「あわわ…、死んでまう……」
蚕は口からあふれ出そうとする臓物を両手で押さえ、もどそうとする。
だが、身体の膨張は収まらず、踏みつぶされたカエルのように爆散した。
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