13◆変質b

 四つの魔力拠点、全てを破壊したことで城内の通路は健全化し、縮小された通路から深界生物は姿を消していた。

 しかし、窓から見る外はいまだ黒色の霧に包まれたままだ。

 やはり異界門を破壊しなければ、俺たち勇者の使命は終わらない。


 天乃国の魔道学者である蚕に先導され、異界門が設置されているという大広間を目指す。


「ところで日輪さん、神威について聞かせてもらえませんか?」

 火音に腕をとられた俺に、蚕がたずねる。


「俺も詳しくは知らない。この作戦の前に兄貴から貰ったものだ」


 兄貴は俺に神威を渡すときに、使わずに済むなら使わなくても良いと言っていたが、あのときすでに必要だと予測していたんじゃないだろか。

 だから、わざわざ月兎子つきとこのいるまえで説明したんじゃ……いや、考えすぎか。


「神の力を降臨させるものだって、水仙は言っていたけど、それも怪しいと俺は思っている」

「なんでです?」


「上手く説明できない」

 そんな耳障りのよい言葉で表現はできないなにかがあるような気がしてならない。


「それにしても神様ですか。いるんですかね神様なんて。

 うちは魔道学者としていろんな研究をしてきましたけど、神様がいるって思えたことはないですね」


「俺だって、神がいるだなんて実感したことはないさ」

 そこに関しては同意する。


「あー、でも神様じゃないけど、魔神はいたんでしたっけ。日乃国の王様に討伐された紅き魔神が」

 蚕は足を止めると思い出したように言う。


「あれは魔物の一種だろ?」

 かつて世界の滅亡の引き金に指をかけたという紅き魔神。

 当時、十歳かそこらの俺は詳細を知らない。

 ただ、兄貴とその仲間によって打ち倒されたという話は吟遊詩人の語る物語で伝え聞かされている。


「そうなんですかね。魔物ってのは魔力影響を受けてるってだけで、ただの獣でしょう?

 獣がわざわざ世界を滅ぼそうなんてしますか?」


「……なにが言いたい?」

「魔神ってのは人間だったんじゃないかと思いまして」


 蚕の話はありえなくないように思えた。

 四神と呼ばれる以前のこととはいえ、兄貴が仲間を集めなければ倒せないような相手なら、たとえ人間だったとしても、魔神の称号を受けるのに相応しいだろう。


「だとして、それがなんなんだ?」

「いや、別になにという話ではないです。

 ただ、なんとなく思い出したんで、話題にあげただけで」

 蚕はそう言って話題を切り上げる。


 だが、俺はその内容を少し考える。

 蚕の言い分では、人間なら世界を壊したいと考えるのは不思議なことではないことになる。

 そういうものか?


「あっ、この先の中庭を抜ければもうすぐですよ。

 異界門の実験がおこなわれた大広間は」


 蚕が指を指す先には開け放たれたままの門があった。

 そこは確かに中庭に通じている。


 だが、その手前で俺たちは足をとめた。


 中庭には無数の深界生物が集い、大広間への道を閉ざしていたのだ。

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