Ⅲ■覚醒

12◆継がれし者

12◆継がれし者


日輪にちりん…………」

 どこか遠くから、また俺を呼ぶ声が聞こえがする。


 俺にはその呼び声に応えるのが怖かった。

 目を覚ましたら、また仲間を神威かむいの生贄としなければならない。


 六人いた仲間も、もはや火音ひおん土星どせいを残すのみ。

 人類を救うには、そのどちらかを生贄に捧げなければならない。

 だがこれ以上、仲間に手を掛けたくはない。


 それに、これ以上、神威を使用すれば、俺は反動に耐えきれず死ぬだろう。

 だったら、自分のいなくなる世界なんて、どうなったっていいじゃないか。


 それでも、俺を呼ぶ声は止まらない。


「日輪……」

 俺は誘惑に負け、まぶたをもちあげる。

 そこには光を含んだ青髪の女の子が俺を見下ろしていた。


 女の子は無言で俺をみつめると、死の間際に残した言葉をもう一度呟く。

「世界を頼む」と。


 死してなおもキミは人類の未来を憂うのか。

 精霊少女の唇が俺に触れると、それは熱となり身体へと注ぎ込まれる。


 蝋燭が継ぎ足されたように、消えかけていた命が再炎した。


 あるいは、それは妄想だったのかもしれない。

 それでも俺は、闇に埋もれていた身体を起こす。


 そして、自らの背に翼を生やし広げると、光ある場所を目指し飛び立った。


   ◇


 まぶたを開けると、そこには丸い銀縁の眼鏡、その向こうに長い睫毛が見えた。


「俺は……」

 乾いた唇から、やわらかな感触が離れると、少女の顔が遠ざかっていく。


「また、死にかけてたの」

 目の焦点が定まると、目の前の相手が頭からローブを被った土星であることに気づく。 


霊薬エリクサー、まだ残ってたのか」

 温もりの残る唇に触れたずねる。


「…………」

 土星は質問に答えず手にした空の瓶をその場に転がした。


「あなたは死んでは駄目」

 そう、ちいさく呟くと、か細い背を向けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る