11◆猛毒c
神威が水仙を分解すると、その記憶が入り込んでくる。
そして、俺は
彼女は水の豊かな山に住む水の精霊だった。
人とは異なるルールの世界で生まれ生きる異界からの訪問者。
しかし、そんな精霊としての生活も終わりを迎える。
その精霊は人間の……水乃国の魔道士に捕らえられたのだ。
そこらかいくつもの残忍な実験を繰り返しその身に受ける。
それは、精霊に縁のなかった憎しみという感情を植え付けるほどのものだった。
だが、その憎しみは発揮されることなく、精霊は弱まっていく。
そして、最後の実験を経て、精霊としての意識は途切れた。
精霊は分解され、少女の中へと注入される。
それでも精霊は意識をもち続けた。
肉体の主である少女と、肉体を砕かれた精霊の意識が、押し込められたひとつの場所でせめぎあう。
それは、所有権の主張ではなく、たんに混乱した者どうしの衝突の繰り返しだった。
少女も精霊も長い間、目を覚ますことはなかった。
実験は失敗したかに思えた。
されど、混乱し乱れたことで正確な形を失ったふたつの精神は、力尽きる寸前に融合を果たし目覚める。
少女の肉体はかろうじて生き延び、精神は融合することで変質していた。
だが、それは実験を行った魔道士にとっては些細な問題だった。
魔道士の欲するものは、精霊の魔力をもった人間を作りだし、より強力な魔法を生み出すことにあった。
実験の成果に魔道士は狂喜乱舞した。
これで自分の名は世界に広まり、永世にわたり語り継がれるだろうと。
されど、その望みはかなわなかった。
少女の肉体を得た精霊と精霊の魔力を得た少女は、それまで彼女らを封じていた束縛をあっけなく破ったのだ。
そして精霊少女は、名も知らぬ魔道士を殺害すると、その研究施設から逃げ出したのだった。
施設を離れた精霊少女は再び山へと帰る。
魔法を覚え、行使できる精霊少女に害を加えられるものなど、山にはいなかった。
だが、彼女の人間である部分を生かすためには、その力と知識だけでは不足していた。
知識と力を使い、交流していた人間たちの問題を解消していくこともあった。
彼らがいなくなれば、彼女自身の命も維持できない。
そうしているうちに、少女は賢者と呼ばれるようになる。
当時の知識は、村人よりはマシ程度のものでしかなかった。
だが、賢者と呼ばれその期待にそぐわぬよう努力しているうちに、その内に相応の知識が蓄えられていく。
それは、長いときを経て、
長い時間を経て、精霊少女は己の身が人としての成長をしていないことにも気づく。
経験により、技術の向上はあっても、肉体的な成長は融合時にとまったままであった。
彼女が不老の身であることを知ると、それを得ようと接触を図るものが多かった。
少女は身を守るだけの強い力をもっており、その全てを退けることは容易だった。
その頃になると彼女はひとりで生きられだけの、知識と経験は得ていたが、それでも人間との交流は細々と残していた。
やがて、その名声は水乃国中に広まり、その知識を国政の役立たせるよう要求されるようになる。
しかし、精霊少女は自らが陰謀に巻き込まれぬため、深く国政へは関わらろうとはせず、されどあなどられその身を狙われぬ程度には、その動きにクギをさしていた。
それらは面倒なものではあったが、それでも全てを遮断するよりも、面倒ながらも人との関わりを残しておくことを望んだのだ。
その理由の正確なところを、本人はわからず悩んでいたようだ。
だが、その記憶に残るたくさんの笑顔をみれば理由は明白だろう。
そもそも彼女ひとりなら、黒霧に覆われた大地でも生き残ることは出来たハズだ。
それでも人類の窮地に立ち上がり、身を粉にして戦ってくれたのだから間違いない。
常に
それが
少女の身体を貫いた神威が完全に赤く変色した。
俺は歯を食いしばり、
水仙の最後の記憶は、出陣前に笑い会った勇者たちの姿だった。
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