11◆猛毒a

11◆猛毒


 蚕を連れ五人になった俺たちは、最後の魔力拠点を目指し暗くねじれた廊下を進む。


「みーや、日輪はん。あいつすっごい形しとるで。

 いや、それよりもこっちや。こっち、こっち、こっち。女性器に似ててごっつ卑猥ひわいや。

 こいつらこんなん姿に生まれ、恥ずかしゅうないんかいな」


 隠蔽魔法の加護のもと、じっくりと深界生物を見る機会を得た蚕は、勇者一行オレたちの心中など察することなくはしゃいでいる。


「静かにしてくれ。あとベタベタ触れるな」

 一応、蚕は音量を抑えてしゃべってはいるが、それでも鬱陶しいことにはかわりなかった。

 俺は、服の中にまで手を入れようとする蚕の手を振り払う。


「なにすんだ」

「うちは病み上がりなんやから優しくしといてーな。

 日輪さんの触ってると、なんだかジーンと体が暖まってええ感じなんですわ。人からそういうこと言われまへん?」


「言われない」

「なら、うちとの相性がええんかいな」

 人を暖房器具のように扱いながら、いけしゃあしゃあと言ってのける。


「お主らいい加減にしろ」

 蚕を止めたのは、不機嫌そうな水仙の声だった。


 その声は決して大きなものではなかったのに、周囲の深界生物が驚いたように動き出す。

 あたりは、蜂の巣をつついたような騒ぎだ。

 しかも深界生物そのはちは10メルトル以上もあるのだから、それが静まるまで俺たち生きた心地がしなかった。


「おい、水仙」

 あたりが落ち着いたのを確認してから、より抑えた声で話しかける。


「すまんかった」

 目をそらし、子どものように頬を膨らませながらもそう謝罪する。


 それにしても、理知的な彼女が謝る側にまわるのは珍しいな。

 それほどまでに蚕とのウマが合わないということか。

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