09◆火水の争いa
09◆
神威の一撃が三匹目の超深界生物とともに、異空間までもを破壊する。
俺たちは城内へともどされたが、まだ戦いは終わらなかった。
いや、終わらなかったのではない。
新たな戦いがはじまってしまったのだ。
それも人類の生存をかけた戦いではなく、勇者同士の生き残りを賭けた戦いが……。
水仙が水で創ったサーベルを斬り上げると、火音の大槍を弾き飛ばす。
大槍は戦場を離れるように転がるが、火音はそれにこだわらず腰に差した柄だけの剣を引き抜く。
そして短く「炎」と唱えると、
猛々しく振り下ろされる炎と、鋭利に斬り上げられる水とが交わると、互いの刃が食い合うように消滅する。
大量に沸いた水蒸気から逃れるように、ふたりは間合いを広げると、今度は互いに魔法の準備にはいった。
「やめるんだ、ふたりともっ!」
木香を失った土星は、惚けたように座り込み、神威の反動が身体に残る俺は動くことすらできない。
火音はこうなることまで読んで、木香を生贄にさせたのだろうか。
一歩間違えば土星と水仙の両者を同時に敵に回すことになっていたのに。
「なんで勇者同士で争わなきゃならないんだ!」
俺は改めて訴える。
だが、水仙に襲い掛かる火音は聞く耳をもたない。
「生き残りが保証されてるヤツは黙ってろ!」
「いかに神威があろうとも、深界生物は強力じゃ。この場で、生き残りを保証された者などおらんよ」
「俺は勝つ。深界生物どもは皆殺しだ。
だからおまえが神威の生贄になれ。言ったよな、自分で生贄になるって!」
「ああなるとも。だがそれは貴様を投じたあとだ」
「そんな言葉、信じられるか!」
火音はそう言い捨てると、呪文の詠唱に入る。
「ケイフレーム・ライラ・サラマン……来たれ炎の騎士。その猛る力を持ちて我が眼前の敵を滅ぼせ……『火精騎士団』!」
詠唱を終え魔法が完成すると、火音のまわりに炎をまとった人型蜥蜴が無数に現れる。
精霊界に住むという火の精霊、
「エムウォタ・ライラ・ウンディ……来たれ清水の乙女。その気高き心を持ちて悪しき者どもを打ち砕け……『水精舞踏団』!」
水で構築された乙女たちは、水の精霊、
荒々しい火蜥蜴とはちがい、水の衣をまとった
並の術者では一匹召喚するのがやっとな精霊を、あんなにも大量に召喚するとは。
四神にして
召喚主たちが、再び魔法の刃で斬り合いをはじめると、それにあわせ火と水、相反する二種の精霊が敵を排除せんと、歪んだ城内を縦横無尽に飛びまわる。
「日輪、お主は仲間を後ろから刺すような奴と一緒に戦えるのか」
迫り来る炎剣を受け流し、水仙が問いかけると、それを火音が否定する。
「はっ、あいつが仲間だったと? 白々しい。
テメーだって気づいていたんだろ。
あの女は俺たちをハメて勝ち逃げする気だった。
月兎子を失って茫然としていた日輪を、媚薬でたらし込んでな。
日輪、気づいていたか? あの女がおまえの心を籠絡しようとこすい手を何度も仕掛けていたのを」
火音の言葉に動揺する。
まさか、木香がそんなことを?
彼女のことは確かに気になってはいた。
だが、自分が生き残るためとはいえ、あの可憐な少女が媚薬など使うとはさすがに思えない。
火音の言うことはその場しのぎの嘘ではないだろうか。
だが、だとしたら、どうして水仙はそれを「嘘」だと指摘しない?
「抜け駆けされて黙って見てられっかよ。
あそこで刺さなきゃ、確実に詰まされてたんだ。
やられるまえにやってなにが悪い」
「その理論で言えば、儂もお主にやられるまえに、やってもいいことになるな。
おまえに後ろから刺されることを恐れたとしてな」
水仙が相手の主張の上げ足をとるように反論する。
「けっ、やっぱり自分が生き残るつもりか、化け物め!」
火音は炎をまき散らしながら剣を振るう。
それは剣匠である俺の目からしても見事な剣術だった。
水仙は火音の勢いに押されながらも猛攻をいなし続ける。
二人の剣腕は甲乙つけがたいが、勢いでは確実に火音のほうが勝っていた。
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