07◆鋼の女王b

 息継ぎをしようと火音が力をゆるめた瞬間、深界生物が黒い靄で覆われる。

 次の瞬間には、俺たちの攻撃で欠損した部分が回復していた。


「そんな馬鹿な……」

 相手のありえぬ回復力に火音が茫然とする。

 精神的な揺らぎは炎鳥に影響し、深海生物に呑み込まれてしまう。


――やはり、人類オレたちの力じゃアレは倒せないのか。


 月兎子を失い、壊れたままの俺の精神は容易く次の手段を選ぼうとしていた。


 だが、二匹目コイツを倒しても終わりじゃない。

 俺たちはこの他にも二カ所の魔力拠点を破壊し、異界門へと辿り着かなければならないのだ。


――生贄は慎重に選ばないと。


 戦力として四神である金華と水仙、どちらの力も、破壊力に特化した火音も欠かすことはできない。

 同じように木香の回復や土星の竜脈による魔力供給も必要となる。


 誰もが必要な人材に思えた。

 誰を欠いたとしても、この先の戦いが困難になるのはまちがいない。


 そんな時、肩を落とした火音と偶然目があった。


「まて、俺は有用だ。こん中でも一番ツエー、殺すなら他の奴にしろっ!」

 彼女の俺を見るの目は、まるで一般兵が深界生物を見るもののようだった。


「おまえが犠牲になれよ」

 言葉もなく仲間の姿をみつめる俺に、火音が怒声を叩きつける。


「肉にする豚みたいに人を見やがって。

 どうせ月兎子をなくして、生きる希望なんてないんだろ。

 だったらおまえがなれよ。生贄になれよ!」


「そんな酷いっ」

 木香が火音の訴えを糾弾するが、彼女の意見は的を射ている。


「そうだなそれもいいかもしれない」

 このメンバーで、一番の役立たずは俺だ。

 どれだけ剣技に秀でようとも、深海生物が相手では意味がない。


 俺はマントから神威を取りだすと、持ち方を替え二叉の穂先を自分へと向ける。

 そして、自らの首へ突き刺そうとした瞬間、顔面に衝撃が走った。 


「愚か者が!」

 それは鋼の義手による一撃だった。


「このパーティーのリーダーは私だ。かってに命を捨てることなど許さん」

「だが……」


 俺たちの力では、超深界生物には勝てないのだ。

 ならば使うしかないだろう。

 例え仲間を生贄に差し出すこととなっても。


 だが、そんな俺の考えを金華は認めようとはしなかった。

「私は絶対に勝つ。あんなおぞましい化け物などに敗北してたまるものかっ」

 力強く宣言すると、彼女は身につけた重装甲を分離した。

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