07◆鋼の女王a

07◆鋼の女王


 迷宮と化した城内を、俺たちは巨大な魔力を目指し歩いていく。


 道は幅はあるものの、前の戦いで土星の作った馬たちは破壊されている。

 作り直しは可能だが、なにがいるかもわからぬ通路を馬でいくわけにもいかなかった。


 みな、口を開かず、黙々と歩み続ける。

 目的地が近づけば近づくほどに息苦しさを増すようだ。


 やがて、魔力拠点とおぼしき場所の近くまでやってくると、その先に複数の深界生物が現れた。


 目のない醜魚たちは、俺たちを発見すると水のない宙を泳ぎ襲い掛かってくる。

 すかさず土星が竜脈から力をとりだし、魔力供給をはじめた。


 先の戦いで雷神と火車の両方を失った俺は、新たな魔剣――朧月おぼろづきをマント内の虚数空間から引き抜く。


 土星から借り受けた魔力を長く反った片刃に乗せると、夜空の月のごとく輝いた。

 それを振るうと光が刃となり、二〇メルトル級の深界生物の巨体を切り裂く。


「ケイフレーム・ガルガ・ドラグン……我が命に従え七頭竜。その息吹をもって、全ての敵を滅ぼせ……『七竜裂滅陣』!」

 赤い装束に身を包んだ火音が高火力魔法を完成させると、七本の火線が走り次々と深界生物を焼き滅ぼしていく。


 重鎧に身を包んだ金華が、その内側からチェスのコマのような金属を取り出すと、それは金属獅子による二頭立ての戦車チャリツオへと変化した。

 金華は戦車へ乗り込むと、両肩に鈍く光る魔砲を掲げる。


「連装魔砲撃」

 轟音とともに、射出された魔力弾は、深界生物を撃ちその動きを鈍らせていく。


 まるで背水の陣を敷いた兵士のようにふたりは戦果を重ねていく。


 息切れしつつも彼女らはとまらない。

 まるで悪いイメージを払拭しようとあがいているようでもあった。


 深界生物を駆逐しつつ移動していくと、突如俺たちを包む空間が変質を始める。


 この感覚は……。


「くるぞっ」

 歪んでいく視界を前に水仙が警告を呼びかける。


 再び闇のとばりが下ろされると、俺たちは為す術もないままに、抜け道のない迷路に呑み込まれた。



 そこは暗く息苦しい正方形の部屋だった。

 部屋の際限がわからないのに、不思議と形だけは認識できる。

 城の中にあるハズなのに、その城よりも巨大で、理不尽なほどに不条理な空間だ。


 ここの主を倒す以外に俺たち勇者は先に進むことはできず、また人類を救うこともできない。

 だが、同時にそれは無謀すぎる戦いに、人の身で挑まなければならないということでもある。


 部屋の上空に黒い霧が集まると、それは筒状の身体を形どっていく。

 やがてそれはナマコに似た目鼻のない巨体となり、支えもなく宙に浮かんだ。


 勇者の誰もが緊張から息を呑む。


「とっとと援護よこせっ」

 火音はそう咆えると、土星からの魔力供給もまたずに呪文の詠唱に入る。


「ケイフレーム・ドドラ・フリート……舞えよ不死の鳥、汝が炎で我が敵を食らい尽くせ……」


 火音の大槍を核として炎の鳥が召喚され、場の空気を熱する。

 遅れて土星から魔力が供給が始まると炎の鳥はさらに巨大化した。


「『炎鳥無限演舞』!」

 魔法が完成を知らせるように炎の鳥が一声鳴くと、その巨大な翼を広げ超深界生物へと襲い掛かる。


「やってやんぜ!」

 火音がさらなる魔力を注ぎ込むと、そのくちばしはナマコ型の深海生物の身体を大きく引き裂いた。


 金華は戦車から降りると、二本の魔砲を担いだまま金属鎧を変形させる。

 鎧は魔砲の反動に耐えるため、地面へと支柱を伸ばし突き刺す。

 身体を固定した金華は供給される魔力のすべてを魔力弾に変え何度も撃ちだす。


 水仙は手持ちの水晶から、大量の水を呼び出すと、それを矢に変え上空へと放つ。


「こんな奴のために、捨てる命なんかねー!」

 炎の鳥は、自らよりも大きな薄気味悪い深界生物を焼き殺そうと奮闘する。


 繰り返される超攻撃に、深界生物の巨体はドンドンと縮小していった。


「いける、いけるぞ!」

 繰り返される魔砲の反動に耐えながらも、金華が周囲を鼓舞する。


――今度は犠牲をださない!


 そう強く願うが、希望を持てたのはわずかな時間でしかなかった。

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