06◆残されし者c
深海生物の攻撃にボロボロになった武者鎧を外して捨てる。
こんなペラペラの鎧ではなく、兄貴のように防御力に富んだ重鎧で固めていれば、月兎子は俺をかばって無茶なことはしなかったのだろうか。
考えても仕方ないことだが、後悔は拭えない。
「そういえば、ここは?」
あたりは広い石造りの暗い廊下だ。
光原があるわけでもないのに、不思議と先が見通すことができる。
「城の中だ。あのまま城門前に留まるわけにはいかなかったからな。
とりあえず中に移動することにした」
金華の言葉に俺はあたりを見直す。
「いやしかし……、以前、天乃国の城を訪れたことがあるが、こんな場所なかったぞ」
もちろん自国のものでもない城を熟知しているわけじゃない。
だが、それを差し引いても印象がちがいすぎる。
「城門前でのことは覚えておろう」
水仙の確認に月兎子の顔がよぎり、俺は苦い顔をするが、かまわず説明は続けられた。
「あのとき儂らが呑み込まれた異空間とおなじで城の内部空間が歪んでおる。
あちらは本来ない場所じゃったが、こちらはすでにある城が変質されたようじゃな」
言われてみれば、造りそのものには見覚えがある。
大きさが変わり、明かりがないので印象も変わっていたのだ。
「中にさえ、入っちまえばデカブツは襲ってこれないってのは、甘かったってこった」
火音が壁を蹴りながら言う。
「それだけではない、見てみろ」
子どものような手に乗せられたコンパスの針は、一定の場所を指すことなくグルグルと回っている。
「このまま進むしかないにしろ、方角すらわからない状態だ。すでに使い魔を放ち調べてみたが、城の内部は迷路化しておる」
「それじゃ、いったいどうしろってんだ。深界生物がうろつく、歪んだ迷宮をあてもなくうろつけっていうのか?」
「目的地の宛てはある。我々の目的は忘れていないな」
「四つの魔力拠点と異界門の破壊だろ」
「ああそうだ、城内に潜入して確認したが、異界門の位置は察知することはできん。
しかし、三つの魔力拠点についてはおおよその位置が感じられる」
なにかを探るように、水仙は長い睫毛を合わせる。
俺もそれに習うように真似ると、たしかに離れた場所に三つの巨大な力がユラユラと蠢いているのが感じられる。
だがこれは……。
「ちょっとまってください、この波動は……」
おなじく感じ取ったのだろう、木香が震えた声をあげる。
「そうじゃな、城門にいたあの強力な深界生物と同じじゃ。
あやつら自身が魔力拠点なのかもしれん」
「つまり我々はあと三度。アレと戦い、勝たなければならないというのか」
絶望的な推測を金華がまとめるが、事態はより深刻だと水仙は告げる。
「いや、四度と考えておいたほうがいいじゃろう。
四つの拠点に守護者がいて、一番重要な箇所になにもないと考えるのは楽観的すぎる」
「最悪だな」
火音が唾を吐き捨てる。
「私たちにあれを倒すことができるのでしょうか?」
土星の手を握る木香がすがるようにたずねた。
「倒す、なんとしても倒してみせる」
力強く言うが、それとは裏腹に金華の顔には以前ほどの自信は残ってはいなかった。
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