05◆最初の勝利c
深界生物が泳ぐ悪夢の様な部屋のなか、月兎子の身体が分解されていく。
それとともに漆黒だった神威が徐々に赤へと変色しはじめた。
すると、神威を握る俺の脳裏にいくつもの絵が浮かんでは消えていった。
快活そうな少年が未発達な身体に見合わぬ長剣を振るい、自らに襲いかかる小剣をギリギリのところで捌いている。
小回りのよい小剣を相手に長剣で防御に回る様子は、危なっかしくて仕方ない。
――だが、あの剣は……
少年の持つ古い剣に見覚えがあった。
昔、俺が兄貴から稽古用にともらった物と似ている。
兄貴のお古を使うことで強さも継承できた気になって、よく振り回してたっけ。
ということは、あの生意気そうなガキはひょっとして俺なのか?
それと同時に、刀身の波打った特徴ある小剣の持ち主のことも思い出す。幼い頃の月兎子だ。
――これは月兎子の記憶なのか
実際、俺と彼女は幼い頃に模擬戦のようなことを繰り返していた。
最初の頃は、素早くトリッキーな動きをする月兎子にまるで敵わず、何度も泣かされてたっけ。
だけど、俺が兄貴の剣を使い出した頃から立場は逆転したんだったよな。
ちょうど少年の振るう長剣が、小さな手から小剣を弾き落とした。
そして、はじめての勝利に少年は満面の笑みを浮かべる。
――こんなに馬鹿っぽい笑い方をした覚えはないんだけどな。
少年は負かした相手のことなど気にせず、長剣の加護だと有頂天になっている。
それを月兎子はジッと見つめていた。
そういえば、それまで人と虫のちがいがわからないと言っていた彼女が、女の子らしい言葉遣いを始めたのも、この頃だったかもしれない。
月乃国の風習だと過度なスキンシップを始めたのもそうだ。
その後も、勝負は何度も行われ、まだ月影魔法を習得してしなかった彼女を相手に、俺は勝利を重ねていた。
月兎子の瞳に映る少年の姿は、ドンドンたくましく育っていく。
頼りなさの抜けきらない少年の身体に、ときどき白く細い手が触れる。
真っ白なその手は、冷たそうに見えて意外と温かかったことをまだしっかりと覚えている……。
やがて、目の前の月兎子の身体が完全に消えた。
だが、彼女の死に際の顔は俺の脳裏から離れなかった。
俺は言い表せきれぬほどの感情のぶつけるように神威を握り締める。
うがががががああああああ――――――――!!
腹の底から咆哮すると、深紅に染まった神威を宙へ投げ捨てた。
がむしゃらに投げ出された神威は、これまで俺たちが放ったどんな攻撃よりも強力で、深界生物の身体を跡形もなく消し飛ばした。
そして、俺たちは一人と五人になったのだった。
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