05◆最初の勝利a

05◆最初の勝利


「なんですか、あれは」

 突如現れた巨大な深界生物に木香が声を震わす。


「まさか、これほどの生物が存在していようとは」

「ひるむなっ、応戦準備だ」

 茫然とする俺たちに向かい金華が叫ぶ。

 即座に正気を取り戻した勇者たちは、自分の使命を思い出す。


 異界門の破壊。

 それがなされなければ、サラウエー大陸の人類に未来はないのだ。

 そのためには、いかなる障害も排除しなければならない。


「土星、竜脈の力は使えるか」

 金華の問いに、土星は頷くと魔力の供給をはじめる。


 だが、先に仕掛けたのは超深界生物だった。

 背後に広げた羽を震わせると、空間に衝撃が走る。

 衝撃は俺たちを押し潰さんと迫るが、三重に張られた水壁に阻まれ俺たちの元までは届かなかった。


「さすがは絶対防壁」

「絶対などではない。次も防げる保証はないぞ」

 水仙の防御魔法を火音の賞賛すが、当の本人にそれを喜ぶ余裕はなかった。


「だったら、速効で倒してやんぜ。おい、援護しろ」

 火音は土塊の馬から下りると、自らを鼓舞するように叫ぶ。


 初めて見ただろう巨大な深界生物を相手にひるまず、先頭に立ち窮地を切り開こうとする。

 暴走にも似た蛮勇だが、いまはそれが心強い。


「ケイフレーム・ビー・バーン……我は炎神の化身なり、下僕どもよ我が身に力を……」


 魔法が発動しはじめると、大槍を構た火音の身体が炎に包まれた。

 巨大な魔力が供給されている影響だろう、そのあまりの熱量に彼女自身が顔をゆがめる。それでも火音は魔法を解除しようとはしない。


「『獄炎覇龍陣』!」

 やがて完全に魔法が発動すると、まとった炎ごと飛翔する。

 荒れ狂う炎と轟音を従えた火音は、軟体生物に似た超深界生物の巨体へと体当たりを敢行。

 灼熱の炎に焼かれた超深界生物は、頭部とおぼしき箇所を大きく欠けさせた。


 俺たちは、火音の作り上げた傷跡めがけて最大級の攻撃を放つ。

 絶え間のない集中攻撃は、超深界生物の巨体をドンドンと削っていく。


「みたか化け物!」

 魔法の反動で傷ついた火音が、膝をつきながらも己の挙げた戦果に笑みを浮かべる。


――俺たちならばやれる!

 どんな災禍であろうとも、人類が手を組めば不可能などないのだ。


 しかし、それでも超深界生物は地に落ちることはなかった。

 それどころか、身体の半分以上を失いながらも、いまだ朽ちる予兆を見せはしない。


「信じられません。あんなになってもまだ生きてますよ」

 火音を治療する木香が驚愕する。


「だが、効いておるな」

「ああ、このまま押せば勝てる! みなのもの、攻撃の手を緩めるな」

 さらなる攻撃に移ろうとした俺たちだったが、そこで信じられないものを見た。


 身体の半分以上を消失し、虫の息と思われた深界生物に黒い霧がかかったかと思うと、次の瞬間には失われていた部分がまるまる再生したのだ。


「嘘だろっ!?」

 生物として考えられない、回復力に誰もが驚きを隠せなかった。


 さらに深界生物は触手を八方に広げると中央に口らしき場所を開く。

 するとそこから小型・中型の深界生物がくぐり抜けてきた。


「馬鹿な、異界門は中央にあるんだろ。それともここが中央だってのか」

「いや、規模が小さい。あれでは大型のものは通れんハズじゃ、おそらくは本体はこんなものじゃない」

「それじゃ、こいつらはいったい」

「あるいは、このデカブツが魔力拠点そのものなのかもしれん」

 水仙が推測を口にする。


「そんな、こんなのどうやって倒せば……」

「攻撃だ、とにかくこれ以上アイツに好き勝手させてはいかん」

 弱気になった木香の言葉を撃つ消すように金華が叫ぶ。

 俺たちは絶望に囚われないためにも攻撃を再開。

 だが、それが効果をあげるよりも先に、八本足の深界生物が先に動いた。


 再びコウモリに似た羽が脈動すると、避けようのない衝撃が降り注ぐ。

 水仙がとっさに水壁を張るが二度目は防げず、俺たちは地に伏せさせられた。

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