04◆勇者の力d

「みな、さすがですね」

 深界生物を蹴散らし、優勢に進む戦況に月兎子が感想を漏らす。

 そして、今度は一五メルトル級のザリガニに似た深界生物を拘束する。


 だが、捕らえられた深界生物が強引にハサミを月兎子へむけ開くと、中から鉄球のような無数の弾丸を発射した。

 逃げ場がないほど広域に放たれた弾丸は、月兎子の身体を人造の馬もろとも貫く。


「月兎子さんっ!?」

 慌てて治療に入ろうと土星を連れた木香が馬を寄せるが、月兎子の身体には傷ひとつできていない。


「大丈夫です、私の月影魔法は物理攻撃を無効化します」

 それが彼女が鎧を身に着けない理由だった。

 彼女の月影魔法は、意識さえ向ければ大抵の攻撃を透過させることができる。

 一部の魔法攻撃は対象外となるが、物理攻撃が相手なら無敵と言っていいくらいだ。


「しかし、馬を失ってしまいました。失礼」

 そう断りを入れると、身軽に跳躍し、火音の馬の後ろへと飛び乗る。

 顔合わせの時にいさかいを起こした月兎子と火音のふたりだが、これまでの交流でその仲は良好となっている。


「このまま城の中まで一気に移動するぞ」

 金華は自らは殿しんがりに着くと指示を飛ばす。


 俺たちは深界生物を蹴散らし開いた道を疾走する。

 しかし、火音の後ろに乗った月兎子が、目指す天乃国の王城を前に眉をしかめた。


「なんだか嫌な予感がするわ」

 月兎子の勘はよくあたる。彼女が言うには月影魔法を使用していると、意図せず未来からのビジョンが届くことがあるらしい。

 初めて深界生物と遭遇したときも、彼女は同じようなことを言っていた。


「いったいどうしたんだ?」

「わからない、でも城の方から嫌な感じがする」

 不安の原因をたずねても、明確な言葉にできないようだった。


 それを聞いた火音が、「きっと、深界生物のボスが、あたしらのことを待ち受けてるんだな」と軽口を叩くが、楽観はできなかった。


 馬を走らせ城下町を抜けていくと、石造りの背の高い城が迫ってくる。

 このまま入城してしまえば、大型の深界生物は追ってくることはできない。そうすれば状況は一気に楽になる。

 その前に魔法拠点を破壊せねば、城内への侵入もできないのだろうが、いったいどこにあるのか。いまのところ目にとまるものはない。


 主城門の近くまでやってくると、なにかを感じ取った月兎子が叫びあげる。


「駄目、ここにはなにかいる!」

 どこからともなく、闇のとばりがおろされると、俺たちは薄暗い巨大な空間に連れ込まれていた。


 出口も入口もない、巨大な円筒状の薄暗い部屋。

 真っ黒い壁には窓らしき穴がいくつも開いているが、そこから覗けるのは虚無の闇だ。


「おい、ここはいったい?」

「ここが魔力拠点……なのか?」

「なんじゃここは。空間がゆがんでおる」

 突然、異空間へと連れ込まれた俺たちは混乱する。


 その時、月兎子が上空を指さした。

「あそこよっ」


 その先の空間に暗いモヤが集まると、少しずつなにかを形作っていく。

 そして、そこに現れたのは、蝙蝠の羽がついた蛸に似た深界生物だった。


「ありえねぇ、いくらなんでも、こりゃデカすぎるだろ……」

 勝ち気な火音ですら、その大きさには息をのむ。


 それも仕方ないだろう。

 超深界生物とも呼ぶべきその存在は、俺たちが目指していた城よりもはるかに大きかったのだから。

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