04◆勇者の力c
深界生物から逃げ切った囮部隊が、本体との合流を果たす。そこから連合軍の反撃がはじまった。
部隊後方に集められた魔法使いたちが力を合わせ、深界生物の動きを封じる。
魔法に囚われ、動きを封じられた深界生物を、鬱憤のたまった兵たちの攻撃が集中する。
さしもの異界の巨大生命体も、無尽蔵に繰り返される攻撃に耐えきることはできなかった。
無敵とも思われた深界生物を倒したことで、兵たちの士気があがる。
しかし、それはほんとうに僅かな時間にしかすぎなかった。
何百人もの兵を犠牲にして、ようやく一匹倒すのが精一杯。
そして、深界生物を倒した英雄も、次の瞬間には別の深界生物の餌となる。
希望を繋ぐための戦いから、一部の兵は逃げ出そうとする。
だが、憲兵に粛正された仲間をみると転進し、泣きながら深界生物へと特攻した。
中には恐怖に耐えられず、自ら命を絶つ新兵までいた。
「こんなの戦いじゃない」
俺は作戦の中止を進言しなかったことを改めて後悔する。
彼らは俺たちを安全に城を向かえるようにするための生贄なのだ。
「堪えろよ」
後ろの水仙はそう声をかけるが、この状況下で平静でいろというのは無理な話だ。
「あの囮部隊を指揮していたのは金華の従弟だ」
潜められた声が、重武装の部隊長を思い出させる。
あのとき食われた彼が、金華の血縁者だというのか。
思わず金華の方をみるが、その姿に揺るぎは見えない。
金華は王族としては血縁者が少ない。
そのうちのひとりを失ってなお、彼女は冷静でいられるのか。
その強靱な精神構造に尊敬とも遺憾とも言い切れぬ感情がわき上がるが、彼女の握る手綱に必要以上の力が込められていることに気づいた。
なにより冷静沈着を旨とし、常に周囲を警戒する彼女が自分に向けられた視線に気づいていないのだ。
彼女とて常に強く言われるわけがない。
「本来はまっさきに駆けつけたい彼女が堪えているだ。
おまえがそれを台無しにするのか?」
俺は、奥歯を噛みしめ、それでも深界生物に襲われる部隊から目を逸らしはしなかった。
「敵は必ず討つ」
◇
「いっきに駆け抜けるぞ!」
深界生物が城壁から離れたことを見計らい、鋼の双獅子が引く
開けっ放しとなった城門を潜り抜け城下町に入ると、まだ残っていた深界生物が現れ俺たちの行く手を塞いだ。
かなりの数が壁外へ出たのは間違いないが、それで全部というわけではなかったらしい。
「外よりはマシとはいえ、たいした歓迎だ」
前方の深海生物たちを見据えた火音が愚痴る。
「ここで足を止める暇はない、蹴散らせ」
金華が土星に指示をだすと、竜脈から吸い上げられた力が魔力となり俺たちに送り込まれる。
深界生物に占拠された城で、竜脈の力が使えるかという不安はあったがどうやら問題ないらしい。
「ゲツムーン・シャドウ……影よ、我が獲物を捕らえよ……『月影縛り』」
土星から供給されたの魔力を使い、月兎子が馬上から
すると、彼女の足元の影が伸び、二〇メルトル級のアンコウに似た空とぶ深界生物の巨体を縛りつけた。
「勝機到来!」
俺はマントの内に繋げた虚数空間から二本の魔剣を引き抜いて構える。
右手には新しく手に入れた雷神。左手には炎を携えた火車。
供給された魔力を送り込むと、神話級の魔剣たちは雷と炎をほとばしらせた。
「雷炎双神斬!」
雷と炎の二重攻撃が相乗効果を生み出し、束縛された深界生物の身体を大きく穿つ。
雷神のおかげで俺の攻撃力は著しく上昇した。
本来なら提供元である火乃国には感謝すべきところであるが、それが天乃国から奪われた戦利品であることを考えると複雑なところである。
「とどめだっ」
火音が魔法を発動させると炎をまとわせた大槍を投擲する。
その一撃は深界生物へと突き刺さると、ヌラリとした表皮を容赦なく炭化させた。
「さすがにここまでやりゃ死ぬだろ」
「油断するな、次が来るぞ」
勝ち誇る火音に、金華が戦車上から警戒を呼びかける。
金華は高速で移動しつつあたりを警戒し、二本の魔砲で深界生物を牽制していた。
手綱を使わなくとも、彼女の創造した鋼鉄の双獅子は主の意を汲んで
通常の魔法よりも魔銃器は扱いが簡単で連射が利く。
しかし、魔法が一の力を十の力に変換できるとすると、魔銃器は二か三の力にしか変えることはできない。
その分複雑な手順を必要としないので、金華のように周りを警戒しながら戦う人間には適している。
それに金華の人並み外れた魔力は、大型の魔砲をまたたく間にチャージすることができ、火力面に不足はない。
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