04◆勇者の力a

04◆勇者の力


 本隊とは別行動の勇者一行おれたちは、白馬にまたがり深界生物てきに発見されぬよう森の中を移動していた。

 ちょうど森の切れ目から、巨大な城壁に囲まれた城が見える。城壁に目立った傷跡はなく、その向こうに見える石作の城ともども健在だ。

 ただし、漂う黒色の霧が、太陽共々その上部の様子を隠したままでを隠したままである。


「あれが天乃国の首都なのですね」

 木香もっこうが自国とはちがうであろう異国の首都を見据えつぶやく。

 すると、「元首都だな」と、かつて天乃国あまのくにを攻め滅ぼそうとしていた、火乃国かのくにの将軍火音ひおんが修正した。


「それにしても、このあたりはだいぶ冷えるのですね」

 白ずんだ息を吐き出した木香が服の上から肌をさする。


 会議では華やかなドレスに身を包んでいた彼女だが、いまは別人と見間違いそうなくらい地味な服装だ。

 木乃国のもので着慣れた戦闘服らしいが、それだけみると下位の魔法使いのようでもある。


「排出地点から近いのでしょう。このあたりの黒霧こくむは一段と厚く、その分太陽の恩恵も薄いわ」

 黒い戦装束をまとった月兎子つきとこが分析する。


 兎の耳を想像させる髪型はいつものままだが、そこに感情らしいものは載ってはおらず、まるで空気の冷たさに心まで凍えてしまったようだった。


「それにしても、こいつは良い馬だな」

 髪色と同じ赤を基調とし、飾りの付いた道着をまとった火音は上機嫌だ。


 俺たちが移動に利用している馬は、土星が魔法で作りだした土塊の馬である。

 見た目は凛々しい白馬だが、本来生物にあるべき呼吸や温もりは一切ない。

 だが、調教した馬よりもずっと扱い易くまた力強い。

 それに深界生物に脅えることもないので、この作戦においてこれ以上有用な乗り物はないだろう。


「日乃国の材料提供があったから……だそうですわよ」

 制作者の土星……ではなく、木香が代理で答える。

 肝心の土星は木香と同じ馬にのり、後ろから彼女の腰に手をまわし身を寄せている。


 戦場に赴くため、装いを変えた木香とはことなり、土星の方は相変わらず地味な緑色のフード付きローブに、分厚いレンズの眼鏡だ。

 もっともローブの下の装備にまで変更があったのかどうかまではわからないが。


「ふたりは仲がいいんだな」

「ええ、生まれた国はちがいますけど、私の母は彼女の叔母にあたるんです」


「つまり従妹いとこか」

「はい、小さい頃は姉妹みたいに遊んでいたんですよ」


 従妹というよりも幼なじみみたいなものか。

 自分と月兎子の関係に照らし合わせてみる。


 土星の力量はこれまでの訓練で明らかになっている。

 竜脈と呼ばれる力の源から魔力の供給を受けると、通常では日に一度しか撃てないきょうな強力な魔法を何発も撃てるようになっている。

 最初は半信半疑だった者も、あからさまに実力が向上すれば、認識を改めざるをえなかった。


 もっとも、彼女との距離が縮まったかどうかは微妙なところで、木香以外の者と話すことはほとんどなく、ずっとくっついているところを見ると「寄生虫かよ」とツッコミたくなるが。


 それに目的を果たすには数多あまたの困難があるだろう。

 もし道半ばで木香が倒れることになったら、土星はその後も作戦を遂行できるのだろうか。正直不安である。


 そんな懸念を抱いた俺に、月兎子が「また他の子を見てるのね」と、鋭利な視線を向けてきた。


「みな、作戦は覚えているな」

 一行の代表となった金華きんかが確認をとる。


 金乃国の王としての地位、公平で厳格な性格と四神としての戦闘力。

 彼女こそ自分たちのリーダーに相応しく、みなが同意していた。


 会議時の軍服とはちがい、無骨で大きい金属の鎧を着けている。ゴテゴテしい武装ではあるが、軍服時にあった義手への違和感が薄れていた。

 二本の筒状の武器――『魔砲』を背負うこの姿こそが、彼女の本来の姿ともいえる。


 魔砲とは呪文の詠唱を必要とせず、魔力の注入と機械的な補助だけで遠距離攻撃を可能とする兵器だ。

 魔法剣のように小回りは利かず、純粋な攻撃魔法ほどの威力もなく、運用状況を選ぶ。

 だが、たいした訓練もなくとも成果を生み出すことができ、運用しだいでは恐るべき兵器となりえる。


「念の為確認しておこうか」

 俺のすぐ後ろから水仙すいせんが返事をする。


 ストレートの青髪を木香によって編み込まれている。

 小柄な身体を包んでいるのは、儀礼用のローブだ。

 防御力がなさそうに見えるが、防御魔法を得意とする彼女に必要なのは動きと魔法の効果を阻害しないものであるという。

 つまり、見たまま服自体には防御力はないに等しいということだ。


 ちなみに軍属経験のない彼女は馬にのったことがないらしく、今は俺の馬の後ろに乗っている。こう見ると、ほんとちっちゃい子なんだよな。


「我々の最終目標は、天乃国内にある『異界門』の破壊である。それにより、深界生物と黒霧の流入を終わらせることだ」

 みなが、水仙の言葉に耳を傾ける。


「だが、異界門は城の中にあるということしか把握できていない。

 それは四つの魔力拠点が結界として作用し、こちらの探索魔法を阻害していると思われる。

 故に城に入ってからは、その魔力拠点の破壊が最初の目標となるだろう」

 それは斥候として天乃国に入った月兎子がもたらした情報だ。

 隠密と索敵に長けた彼女は、深界生物の巣窟へと忍び込み、そこで数多くの情報を集めてきてくれたのだ。

 ただし、肝心の城までは踏み入ることはできず、それ以降は完全に手探りとなる。

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