03◆決戦前a

03◆決戦前


「我々は現在窮地に立たされている」

 大会議室で開催された深海生物対策会議には、勇者や外交官といった各国の要人が集結。

 主催国の国王である兄貴が、進行役として事態の整理と認識の共通化を図っている。


「天乃国の城に作られた異界門。そこをくぐり抜け現れる深界生物は万人の脅威だ。

 また、大地に覆い被さり陽光を妨げている黒霧こくむも、異界門から流れでている推測がされている。

 故にまずは異界門を閉じなければ、人類に未来はないと言っても過言ではない。そのため我らはいかなる力も惜しんではならない」

 兄貴の演説にみんなが頷くが、それは表面上のことにすぎない。


 窮地に手を取り合うことを誓約しようとも、数カ月前まで殺し合いをしていた相手だ。いきなり信頼し合えるかと言われれば難しい。

 それを証明するように、会議が進み支援の話になると急激に進行が鈍り、あまつさえ逆行を始めた。


 先日の交流で、互いの力量を認めあった勇者らはいくらか打ち解けているが、外交官や軍事指導者らは交流と呼べるほどのものはできてはいない。

 いまだ他国を牽制し、有利な立場につこうとする意識が抜けていないのだ。


 特に酷いのは、やはり火乃国の外交官だ。

 大陸一の軍備を謳いながらも、露骨なまでに物資の出し惜しみをしている。

 その振る舞いにみなが渋面を作っる。

 外交官のとなりには火音が同席しているが、あくびをかくだけで御そうとする意思は欠片ほどもみせない。


 領土的野心の強い火乃国が出し惜しみをすれば、隣接する他国たちは当然警戒を強める。

 この会議とて、本来なら大陸最大領土を誇り、天乃国に隣接している火乃国主導で行われるのが筋である。


 だが、火乃国の野望を危ぶむ国々がそれを嫌ったのだ。

 結果、火乃国、金乃国につぐ軍事力ナンバースリーであり、天乃国とも隣接している日乃国に作戦をまとめる役目がまわってきた。


「もとはと言えば今回の件、貴様らが天乃国を追い込んだのが原因だろう。

 追い込まれたせいで彼らは暴走し、異界生物の召喚などという、おぞましき実験に手をだしたのだ。

 原因の一端が貴様らにあるのだから、貴様らが一番物資を出すのが当然だろう。なのに、なぜ出し惜しみをする」


 土乃国の外交官が声を大にして火乃国の外交官を責める。

 派遣した勇者とはちがい、こちらはちゃんと存在感のある御仁のようだ。


 土乃国の外交官が言っていることは本当の話だ。

 天乃国は火乃国に追い詰められて、禁忌を犯す実験に手を出した。

 彼らが野望を抑制していれば、今日の事態はなかったとも言える。


 土乃国の外交官がことさら感情的なのは、同じように彼らに攻め込まれた過去があるからだろう。それで家族や親しい人を亡くしたのかもしれない。


 小競り合い程度ではあるが、日乃国も火乃国と戦ったことがある。

 無事撃退し、領土を守ったとはいえ他人事ではない。


 そんな被害者の恨みを向けられても、火乃国の外交官にひるむところはない。


「火乃国の大王、火狼様がサラウエー大陸を統一してこそ、人類は至上の幸運にみまわれるのだ。

 それに抗い、あまつさえ禁忌に手をだした天乃国こそが悪い。

 素直に我が国の軍門にくだっておればこんな事態を招くこともなかったものを」

「それは、次の侵略された国は、抵抗せず下れといっているように聞こえますな」


「まぁ、次というものがあれば、そのときは抵抗もできないほど圧倒的に攻め入るでしょうな」

 土乃国と火乃国の外交官たちのぶつかり合いが激しくなる。


 国力としては火乃国が圧倒的に上だが、土乃国の主張はこの場にいる火乃国以外の外交官たちと向きを同じとするものだ。

 各国の援護を受けているにも等しい状況で、強気に出るのもよく分かる。あるいは、通常では受けられない巨大な援軍に必要以上に気を大きくしているのかもしれない。


 会議は火乃国とそれ以外の国とが対立する形を要してきた。

 このままでは火乃国の外交官が怒り、作戦から抜けると言い出しかねない。


 会議の主催国の主である兄貴は、中立を維持するように心がけ発言を控えている。

 会議で互いの主張をぶつけることで、ガス抜きをするのは必要だが、これ以上続くと、今後の作戦展開に支障がでかねない。そろそろ止めようかという時に変化は起きた。

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