02◆勇者集結c
「なるべく、見やすくしたつもりだけれど、ちゃんとわかってもらえたかしら?」
冷酷な本性を感じさせるその声に、火音は鳥肌を立たせるだけで、なにも答えられない。
月兎子の月影魔法に、傍観していた勇者たちもその目を疑っていた。
無理もない、呪文の詠唱も道具の補助もなしに、人体同士のすり抜けなどという、離れ業をやって見せたのだ。
俺だって知らなければ、彼女らと同じ顔をしていただろう。
あるいは、驚きの原因は人体透過という月影魔法の起こした結果ではなく、迷うことなく首を狙う暗殺者としての資質だったのかも知れない。
だがこれで、月兎子が勇者にふさわしいだけの実力を秘めていることは示せた。
誰も彼女を見た目が麗しいだけの女とは思わないだろう。
しかし、月兎子のスイッチはいまだ切れたままだ。
火音の首に手をあてたまま断じる。
「でも、あなたには資格がないみたいね」
火乃国の大将軍として、いくつもの戦場で勇名を馳せた火音。そんな彼女が、蛇に睨まれた蛙のごとく動けない。
――もう十分だ
そう言って、止めようとするよりも早く変化は起きた。
空気の凍り付いた会議室に、花の爽やかな香りが広がる。
「まぁまぁ、レクリエーションはそのくらいにしましょう」
その暢気な声に、みなの緊張の糸がゆるんだ。
発したのは金華の隣にいた、一輪の黄色い花を手にした少女だった。
背が低く小柄だが、年の頃は俺や月兎子と同じくらいか。
清楚なドレスで着飾った姿は勇者ではなく、可憐なお姫様にしか見えない。
「月兎子さんの術はお見事でしたし、もう、誰もあなたと日輪さんの実力は疑いませんよ。
火音さんだって、今回はちょっと驚かれてしまったようですが、彼女がお強いことはみなご存じなのですから、もうよろしいでしょう?」
少女は俺の方へ視線を向け、同意を求める。
それに「もちろんだ」と頷くと、火音の背後にまわったときとおなじよう、足音もたてずに俺の隣へと月兎子はもどってくる。
「ありがとう。えっと、君は……」
俺は場の空気を和らげてくれた少女に礼を言うと、その素性を尋ねた。
「わたくしは
日乃国の日輪さま、月乃国の月兎子さま、よろしくお願いしますね」
大きな碧眼の少女は、ウェイブのかかった長い金髪を揺らし名乗る。
微笑みのよく似合う、人当たりのよさそうな子だ。とても戦士には見えない。
「まさか、テメーがこの作戦にでてくるとはな。お城の奥で優雅に花でも摘んでるかと思ったぜ」
どうやら、彼女たちは顔見知りらしい。
助けられたハズの火音は感謝もせず、八つ当たりでもするように話しかける。
火乃国は水乃国と月乃国以外のすべてと国境を接している。
そして、国主である火狼が持つ野心は大きく、隣接した国々のほとんどと戦火を交えているのだ。
そのせいもあって火乃国の将軍は顔が広い者がほとんどだ。
それでも、お姫様然とした木香が火音と面識をもっていたのは意外だ。
「火乃国に比べれば木乃国は弱小ですが、わたくしも王家の一員です。
窮地に立たされた人類のため、お役に立てればと馳せ参じました。火音さんはわたくしの実力にも不満がおありなのでしょうか?」
柔らかな物言いながらも、そこには引く気がないという意気込みが感じられた。
「まさか。おまえの『
その火音の返答は俺には意外に思えた。
皮肉交じりとはいえ、木香は火音が認めるような人材なのか。
人はみかけによらないというが、俺には彼女の素質は見抜けない。
「しかし、
「木香は回復魔法の達人だよ。生きてさえいれば、こいつの力で何度でも立ち上がることができるだろうぜ」
俺の感想に火音が説明をつけ足す。
「日神さまの要請により、父王の代わりにわたくしが国を代表し参りました」
たしかに攻撃要員ばかりがいても、目的は果たせないだろう。
激戦が繰り返されることを予想すれば、回復要因は必須である。それを思えば、兄貴の要請は当然に思えた。
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