眼の中のゴミ専門店

なんてものを経営して1年が過ぎようとしている。

みなさんお元気ですか。


青空に浮かぶ白い雲を見たり、コンクリートでグレー一色の壁を見ていると現れる奴。それが目の中のゴミだ。

それを売る仕事をしている。


どうやって売るかって?

ふふん、企業秘密をそうやすやすと教えてたまるものか。さては、お前はライバル店の回し者だな!


こうして敵のスパイを追い払った所で、仕事に戻る。


玄関の呼び出しの鐘がカラコロと鳴りお客さんが来た。妙齢の若い女性でどことなく気品があり、丈の高いシューズを履いていると思ったら、高下駄だった。


「ここね。目の中のゴミを買い取ってくれるというお店は」

「形にもよります。有名版権キャラクターに似てたら割増料金で買わせていただきます」

「色は見ないの」

「色ですか」

この商売を長くやっているが、目の中のゴミは黒一色の事が多い。他の色があったらたぶん病気だ。

「私の眼の中のゴミはね。オーロラのように七色に光るの」

「どれどれ見せてもらいましょう」

一瞥してわかった。彼女のはゴミではない。彼女にだけ見えている幻覚なのだ。

俺は早々にお引き取り願った。


ふう。今日はめぼしいお客は来ないと見える。少し早いけど、店じまいするか。

「ごめん下さいまし」

今度は初老の貴婦人が現れた。杖をついている。年季の入った風体だ。

「おや、何か用ですか」

「私、版権物の眼のゴミがあるんですよ」

「どれどれ、おおやこれはすごい。すごいけど惜しい。昭和のキャラクターだ」

「昭和はダメなんですか」

「人気がないんだよね。残念ながら」

こうして次のお客も去って行った。なかなか当たりを掴むのは難しい。まあ、焦らずぼちぼちやるか。

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