第6話 不運な人生の人

  生れた時に医者がぼくを見て首をひねっていた。

「何でこの子は生れてこれたんだろうか」

この話は母から何度も聞かされたので覚えている。詳しいことはわからないが、この世に生を受けたことが奇跡だったそうである。だからなのか、生まれたことで運を使い果たしたのか、とにかくろくでもない事ばかり起きている。

 

 ぼくは今中学生なんだけど、授業で買った教科書を開いたところバラバラになってしまった。もう一つの教科書はまともだと思ったら罠で、同じ内容が二回も掲載されていた。クレームをつけて別の教科書を送ってもらおうとしたら在庫がなかったので、同級生から借りる毎日だ。おかげで予習も復習もできない。勉強はどんどん遅れていく。机はなぜか表面に彫刻刀でサグラダファミリアが彫られていて、ガタガタしてて書きづらい。鉛筆はすぐに帳面を突き破り、テストの時は芯が立て続けに10本折れた。三度目の席替えで当たった時はさすがに切れて先生にクレームをつけた。その後机は変わったのだが、脚が不揃いでガタガタして書きづらい。事情を知らない先生からは「貧乏ゆすりをするな!」と叱られた。その机ももはや三代目になるが、今度は床に凹みができて難儀している。まあいいさ、今度の席替えで変わってやる。


 担任の先生は、ものすごくそそかっしくて、だけど本人は自覚がなくてクラス運営はえらいことになっている。先生自身の世界の認識ががばがば過ぎて、ぼくがいくら不調を申し立てても先生基準では恵まれていることになってしまうから、全く役に立たない。

「福富豊作。おまえはちょっと神経質すぎやしないか。小さなことにこだわっていたら大物にはなれんぞ」

 ゴールデンウィークと間違えて新学期早々自主十連休にした先生に言われたくないわ。


 体育の授業では業者の手違いで渡されたジャージはショッキングピンクだった。しかたがないのでそれを着ているのだが恥ずかしい事この上ない。別にLGBTでもないのだから困る。おまけに母が変な柔軟仕上げ剤を買ってきたのだからフェミニンな香りがプンプンしている。


 しかもクラス替えで1年時に各クラスの不良が全員うちのクラスに集められてきたから大人しいぼくはたまったもんじゃない。しかもぼくは近眼なのに後ろの席なんだ。授業が始まると、不良たちはゲームを始める。全然学習ができない環境なんだ。


「福富、パン買って来いよてめー」

 不良たちにパシリを言いつけられてコンビニまでパンを買いに行く。なぜか不良たちの好きなチーズ牛丼パンは学食にはなく。学校から500メートル離れた

コンビニにしかそのパンはない。校門では体育教師の仲代が見張っていて、見つかったら腕立て伏せ3万回の罰だ。やり残した分は翌日にまわされる。

「福富、おまえなあー。もう累積加算でどえらい数やぞ。やれんのか?」

 ぼくはなぜか身長だけは180あるのでどんなに頑張っても見つかってしまうのだ。え、そんなにでかかったら不良なんて倒せるだろうって? ぼくは運動音痴でおまけにからっきし意気地がないんだ。握力は15だ。


 というわけで罰を受けるためだけに学校に通っているようなもんだ。もちろん浮いた話は全くない。じつはぼくの体は磁気を帯びていて、女性に出会うと反発するようになっているらしいんだ。だから朝女子にあいさつしようとして近寄ると“ばふっ”と音がして相手の女子は2メートルぐらい遠くに飛ばされている。ぼくのまわりには女子は近寄れない。肉親以外の女性と話したことが一度もない。親戚以外の女性という物をぼくは知らない。


 ぼくの人生は喜劇に彩られている。今朝も登校途中に養鶏場から逃げ出したニワトリがぼくの頭の上で卵を産んだ。

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