第3話 発達障害冒険者

 俺は今、急に現れたスライムやら一つ目の巨人なんかと闘っている。なんでそんな世界になってしまったかって、いきさつは聞かないでくれ。


「忘れた!」


 発達障害者最大の武器“忘れた”だ。これが発動するとあらゆることが忘却の彼方になりなんでもなかったことになってしまう。便利かって? いや不便だね。今まで俺がいかにこの度忘れで悩まされてきたか知らないだろう。あれは思い出すこと10年前、そう高校受験のある日。いつのもようにギリギリに家を出た俺は受験票を忘れたことに気づいて、駅で鞄の中をまさぐった。「ない。どこにもない」


 おっとモンスターが現れたようだぜ。おしゃべりはここまでさ。よしこいつらザコキャラをとっととやっつけて経験値とわずかなお金に変えて見せよう。


「剣がない」


 あれさっきまで腰にぶら下げてたはずなのに、どこいっちまったんだ。くそこのままでは攻撃できない。よしなんかの時用のヒノキの棒で攻撃だ。


─主人公はトウモロコシの芯でなぎはらった。スライムはノーダメージ─


 なんでヒノキの棒がトウモロコシの芯になっているんだ。うっぐっ。スライムの攻撃を食らった。ダメージは少ないが手堅く薬草で回復しよう。道具袋と。


─主人公はチンゲン菜を使った。しかし何も起きなかった─


 なんで薬草がチンゲン菜に変わってるんだよ。うぐっ。またスライムの攻撃だ。今度はやばいな。しょうがない不慣れな魔法攻撃だ。


「点に燃える創造の紙よ、わが力を目覚めさせ、モンスターを焼き原わん」


 うわっしまった魔法の呪文が誤字だらけで発動しない。ここは三十六計逃げるにしかずだ。逃げろー。


─主人公は方向音痴すぎて敵に突進した。敵30のダメージ。敵は全滅した─


 スライムが起き上がり「仲間になりたい」と言っていた。しかし主人公はAPD(聴覚情報処理障害)だったので、よく聞こえずそのまま帰ってしまった。

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