第2話 庭鉄道

 隣のおじいさんは鉄道模型趣味が高じて、庭の中に線路を敷いて電車を走らせてしまった。それは個人の趣味なのでどうでもいいのだが、問題はぼくら小学生を集めて列車に乗せようとするのだ。お年寄りの趣味に付き合うほど暇じゃないのだけれど、しつこく誘ってくるので、僕と錦とケラの三人は断念して乗ることにした。


「ちょっとしたボランティアだな」錦は得意そうに語る。甘い、錦はまだ甘い。鉄道模型の主はそう考えていないぞ。あの爺さん、僕らが乗りたがっていると思っていやがる。

「ライブスチームっていうんだって」ケラが興味深そうに口を開いた。あぶない、ケラはあぶない。爺さんを調子づかせてしまう。ケラの頭を小突いてあまりはしゃがないように釘をさす。ケラはキョトンとしている。そうだ彼女は言わないとわからない。

「その質問は胸にしまって、今日は大人しくしてるんだ」

「つまんないなー」ケラは両手を頭の後ろで交差させると背筋を伸ばして上半身を揺らした。


 こうして僕らは町内の名物爺さん百地の家にやってきた。

「どうだ汽車ポッポだ珍しいだろう」

先頭の機関車にまたがった百地は、白い湯気を立てている機関車を誇らしそうに見せた。口角を上げた口元からつばきが唇を染めて光っていた。

 百地さんは近所のスーパーで買ってきたらしき桃をすすめてきた。ひんやりとした果肉がのどを伝っていく。しかし爺さんの表情は早食いを勧めているようだ。僕らは空気を読んで早食いをした。


「さあ乗った乗った。出発進行」

50メートル行かないうちにトンネルに差し掛かって僕らは列車から降りた。やがてトンネルから汽車が出てきたので、馬鹿馬鹿しいけど再度またがった。


「よし鉄橋に差し掛かるぞ。お前ら足を上げて」

ぼくらはカエルのように足を上げて池を渡った。池の亀がせせら笑っているように見えた。

「ほおら、すっぽんじゃから足を食われてしまうぞ」なんでも信じるケラはより高く足を上げる。爺さんに受ける。

 

 庭を一周すると汽車は元の場所へと戻って行った。ぼくらは途中で木の葉やかたつむりと触れ合い、半分自然をまとって帰ってきた。


「どうだ面白れぇだろう。もう一回乗るか」

 百地の爺さんに促されるまま僕らは6回同じ場所をぐるぐる回った。


満足げに笑う百地さんにお礼を述べた後、僕らの慰問は終わった。


「お年寄りの接待も大変だな」錦は疲れを額に浮かばせて疲れた口調で声を出した。

「いや私は楽しかったよ。飽きたけど」ケラが少し浮かれた口ぶりで話す。こいつは要注意だなと僕は思った。


 次の日、百地の爺さんからお誘いの手紙が届いた。僕はやれやれといった気分で、友人たちにメールを送った。

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