第6話 質も量もないものをふたつ提出してお茶を濁すな
ひとつめ
仕方がないだろ、飲み会だって仕事なんだ、と夫が妻に言って玄関から出ていくシーンは今でもドラマで描かれているのだろうか。それはそうと大学生でも付き合いでの飲み会というのはあるもので。
「お前なんであんなお世辞言いまくったんだよ。中村先輩ノリノリになっちゃってたじゃないか。」
「あの先輩は無理にでもおだてた方がいいんですって。テンション下がっちゃったらむしゃくしゃして三次会から徹夜カラオケコースですよ。」
島先輩はなるほどね、と言って肩をすくめた。
「まあ二次会で済んで終電のある時間に帰れたからいいけどよ。」
「でしょう?……うえっぷ。」
せりあがってきた吐き気を気合で押し返す。ふらついて壁に手をついた。向かい側からやってくる車のライトが僕たちを照らす。カーブミラーが僕たちを見守っているかのように見えた。
「大丈夫か?」
俺は酒に強くない。というかめちゃくちゃに弱い部類だ。今日も飲み会が始まって烏龍茶で乾杯したあと、つきあいで一口飲んだあとの記憶があいまいだ。頭も痛い。
「今日はお前二軒目で急にガシャを引き始めたんじゃないか」
ああ、そうだった。そのせいでいま僕は島先輩に抱えてもらいながら徒歩で帰っているのだった。片側一車線の道路の白いラインを一歩ずつ踏みしめながら数時間前のことを思い出す。
*****
「限定ランちゃん5枚引けるまでガシャ回しまーす!!」
大人気ゲーム、つむつむコネクトの看板キャラ、ランちゃん。簡単に説明すると僕の嫁だ。異論は認めない。
220連で3枚目を引いたところまではよかった。しかしそこから出ない出ない。結局天井の300連目まで引いたところで4枚目を交換し、5枚目が出たのは580連目だった。10連ガシャが何円なのかは想像にお任せする。というか思い出したくない。
明日バイトの給料日だからと調子に乗ったのがよくなかったのだろう。気付けばATMの中には帰りの電車賃すら残っていなかった。
*****
「あれも飲み会の雰囲気を盛り上げるためっていうのには納得するけどよ、本当に生活大丈夫なのか?」
「いや、ガシャがどうせ今日の24時までだったんでどうせ引く予定だったんですよ。」
もう一度アプリを開く。一覧にいるマイワイフの姿を見て思わず笑みがこぼれる。
「ランちゃん……。へへへ……。」
*****
「……い、……ろ。い、起きろ」
「ふぇ?」
気が付くと僕は居酒屋の机に突っ伏していた。
「あれ?居酒屋?どうして?限定ランちゃんは?」
「なに言ってんだ?お前は中村先輩からもらった一口ですぐ寝ちまっただろうが」
頭痛に悩まされながらもあたりを見回して状況を理解しようとする。皆会計のため出口の方へ集まっている。どうやら解散するようだ。
「え……。ってことは限定ランちゃんは……。」
急いでアプリを起動する。やはりランちゃんはいない。日付が変わっている。懐もまだ暖かい。
「胡蝶の……、夢……。」
今の僕と夢の中の僕、どちらが現実なのだろうか。果たしてどちらの方が幸せなのだろうか……。
おしまい
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ふたつめ
世界中を股にかける女怪盗ルーシー。
次の獲物は──カジノそのもの!?
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「ちょっと飲み物をいただけるかしら?」
「ええ、なににいたします?ウイスキー?カクテル?」
「ドリンクは、そうね、ミルクで。あなたはここに勤めて長いのかしら。」
「ええ。ヤンキースが最後にリーグ優勝した年から。ところでお嬢さん、カジノにいるにしてはお若いですね。お名前を伺っても?」
「リタよ。リタ・ヘイワース。」
「……それは本名?」
「今日のね。」
*****
「そろそろ火遊びもやめたらどうだ?もう落ち着いてもいい頃だろう」
「私は刺激がなくちゃ生きていけないって何度言えばわかるの!?」
「違うね、君の本心は落ち着きたがっている。」
「なに?私を狙ってるの?」
「ローリングストーンズを聴かないのと頭痛が酷いとヒステリックになるのが君の悪いところだ。君はここ数年でさらに不安定になってる。故郷が恋しいんだ。」
「うるさい!」
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「オーナー、予定通りルーシーとみられる客が現れました。」
「そのままの体制でいい。なにか動きがあったらプラン通りに動け」
クレイジーなやつらがラスベガスを舞台にド派手なおいかけっこ!製作費100万ドルのアクションコメディ!
*****
「最後に忠告だ。あのオーナーには手を出さない方がいい。」
「ご忠告どうも。私は部屋で寝てる。何か動きがあったら起こして。」
「あいつは靴の裏のガムより厄介だって評判だ。」
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「ファム・ファタール2 9月14日公開!!」
*****
「……これ2から駄作になるタイプだ。」
おしまい
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