第3話 「音の地平線的なアレ」


『或る存在しないページ』


『これより歌うは

どの地平線にも存在しない物語

彼女はどこからやってきたのか

なぜやってきたのか

いつやってきたのか

覚えているものはどこにも存在しなかった

そう、彼女の持つ人形以外には─』



(台詞)あるとき、この惑星(ほし)の外、銀色の円盤からいくつかの舟が落とされた。しかし、残念ながらそのうちのひとつは完全ではなかった。少女は投げ出され、過去を忘却(なく)してしまった。

(間奏15秒)


「お目覚めな0301(さ)い、ねぼすけ0301(さ)ん」

幾度と繰り返した朝に少女は目をこすりながら

「おはよう人形さん、今日もいい天気ね」

幾度も繰り返した言葉を返す

少女は寂れた城の中でいくつもの夜を明かしていた。

彼女の人形(たんまつ)が言うには「あなたはこの惑星(ほし)を調査(し)する(る)ためここに来た」と


(少女)しかし私にはこの惑星(ほし)を調査する術(すべ)がなかった。城の周りの小さな兎を見つけてはなんとか命を繋いでいた。それで私は満足だった。

そんなある日男がやってきた。彼は私を見つけると丁寧に会釈をして名乗った。


「こんにちは、お嬢さん(マドモアゼル)。私はこの辺りの警備を任されている者。謎の少女を見たとの報告を受け私は廃墟を調べに来たのです」

「私は知らないわ。過去もこの惑星(ほし)もなにもかも」

人形が言うには「人間と関わるのはやめな0301(さ)い」


(台詞)しかしなにも知らない少女は男に興味を持ってしまった。

男はこの辺りのことについて話した。この城は二つの国の国境にあること、そろそろ二つの国の間で戦争が起きるということ。


「お嬢さん(マドモアゼル)、お逃げなさい。ここはもうじき戦争の手がやってくる。」

「いいえ、私は逃げないわ。それよりもっとお話を聞かせて」

男は話した。二つの国の歴史について、彼自身について。彼の話ひとつひとつに少女は興味深そうに相槌を打った。その夜、二人は小さな兎を食べながら約束を交わした。

「ここは危険ですせめて私と一緒においでなさい」

「いいえ私はここにいるわ。ここ以外での生き方など知らないもの。この城がどんなに崩れようとも私はここで戦争が終わるまでまたあなたを待っているわ」

男は仕方なく引き上げた。戦争が終わったらいの一番にここへ来ることを約束して──


(間奏45秒)


『堅く結ばれた二人の約束。しかし世界は少女に対して悲劇を演じることを選んだ。戦争が終わり、男が廃城へ向かうと、瓦礫のしたから赤く染まった人形の残骸が顔を覗かせていた』

男は呪った。止まることのなかった戦火を。彼女と再会できなかった運命を。

誰もいない城の中で泣き崩れる男の頭に声が響いた。

「待つことができずごめんなさい。私はこの惑星(ほし)の外で生まれたもの。私たちは出会うはずのなかった。運命を憎むことなどないわ。数奇な運命のおかげであなたと出逢えたのだもの。あなたと話せた時間は短かったけれど幸せでした」


『その廃城の前には人形が、そして魔を払う兎の足がおいてあるという……。』

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