第2話「インタビュー」 お題:?????

 すみませんお待たせしまして。最近は私どもも忙しく猫の手も借りたいくらいでして。

「はぁ、煩わしい挨拶はいいわ。早く始めて」

 おっと申し訳ありません。では早速始めさせてていただきます。

「インタビューでしょう?久々ではあるけれど慣れているというより飽きているわ。さっさと終わらせて頂戴」

 ええと、そうですね、では最初に。失礼かもしれませんが最後に私があなたをテレビで見たときと比べてだいぶふくよかになられましたね。

「ええ。何年前かしら。最後にテレビに出たのがあの医療ドラマだったから、30年くらい前ね。そのドラマの直後にスキャンダルで引退したから」

 ええ、たしか交際相手の方が不倫なされたのでしたよね。当時も言われていましたがあなたまで引退する必要はなかったのでは?

「ふふっ、よく覚えてるわね。まあ確かに引退する必要はなかったかもしれないけれど人を信用できなくなったのよね。もうカメラの前に立つのが嫌になっちゃったのよ」

 それからはどういう生活をなさっていたのですか?

「私は才能っていうのは使うべきだと思って生きていたの。美人に生まれたからにはちやほやされるべきだしお金持ちの家に生まれたらお金を使って生きていけばいいと思っていたわ。だってその人が持っている権利なのだもの。今もその考えは変わらないわ」

 ほうほう、それで?

「彼に裏切られたときに思ったのよ。権利じゃなくて義務も当然存在するんだって。お金持ちは使えるお金の量が多いけれどその分税金だって多く納めているでしょう?それと同じで美人であることにも利点だけじゃなくて欠点があったの。それは私の外見に魅了されて内面を見てくれないこと、そして外見に引き寄せられて様々な男がすり寄ってくること」

 ではその体型には自分で望んでなられたのですか?

「ええ。美人であることによる権利と義務を捨てたかったの。役作りで体型を変えるっていうのに憧れてもいたしね。好きなだけ食べて好きなだけ寝てやったわ。ゲームで夜更かししながら寝転んでコーラとポテトチップスを頬張るのは最高よ!……こいつ子供みたいだなって目をしているわね」

 い、いいえ!そのようなことは……!

「いいわ。どうせ私は芸能界に入って高校を中退したから中身はまだガキよ。まあ人の目も気にしなくていいし仕事の準備もしなくてよかったしあの期間はけっこう嫌いじゃなかったわね」

 その生活はどこで終わってしまったのですか?

「マスコミも私に飽きて追いかけるのをやめたころだったかしら。一人の男と出会ったの。起業家だって言ってたわね。ついに念願の外見に惑わされない男を見つけたの。あの瞬間が今までで一番嬉しかったかもしれないわね。スカウトされたときよりも、ドラマの初主演が決まったときよりも、最初の彼と結婚したときよりも」

それからはしばらくその男性と幸せに暮らしたのですか?

「ええ。しばらくはね。それが終わったのは彼が多額の借金を抱えているのがわかったときだったわ。私は一生分のお金を稼いで引退したつもりだったけれど彼の借金ですべて消えた。いつの間にか私を連帯保証人にしていたみたいでね。私には頼る家族もいなかったからそれからは公園で暮らしたわ」

 それは知りませんでした。その後はどうでした?

「日雇い派遣でなんとか食費を繋いだの。誰も私があの過去の大人気アイドルだって気づかなくてほっとしたけれど、体調の悪さには辟易したわね。もともと生理が重くていつも貧血気味だったのだけれど、積み重ねた悪い生活習慣と固くて冷たい地面で寝てるのが悪かったわね。一日中頭痛やめまいが止まらなかった。」

それは大変でしたね。……そしてここにいらっしゃったと。

「ええ。帰る途中に倒れて轢かれてそれっきり。面白かったことも多かったけれどろくな人生じゃなかったわね。」

 なるほど。それでは本題になるのですがどのような来世をお望みですか?

「ぜーんぶ。なにもかも平均でいいわ。なんなら少し下くらいでもいい。優れた能力なんていらない。それなりの親に育てられてそれなりの学校に行って自分でそれなりに幸せになるわ。」

 分かりました。では今回のお話に虚偽がないか確認が済んだのち、転生の手続きに移らせて頂きます。えー……、申し訳ございませんが最近ここへいらっしゃる方が増えておりまして、おそらく二週間程度かかる見通しです。その間観光をお楽しみください。

「それくらい分かっているわ。まあ休み時間だと思ってゆっくりすることにするわ。天国ってものを見られるとは思ってなかったしね」

  ありがとうございます。では、またのお越しをお待ちしております。

「次に来る私は胸を張ってここへやってきてやるからね!覚悟しなさい!」

 ふふっ。天国で中指を立てる人はなかなかいません。次はきっとよい人生を送れますよ。私が保証します。


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