身内でN題噺をやったときできた作品を掲載する

@aquaharuka

第1話 「クリスマスの夜に」お題:ピュアっピュア コロッケ おっちょこちょい

「なぜ俺はこんなところにいるんだ?」

「榊くんすごいよ、これ!部屋にカラオケがある!歌っていいのかな!?」

気が付くと俺は職場の先輩と二人でラブホテルにいた。飲みすぎたからか痛みで働くことを拒否する頭に労働を命じてここまでの記憶をたどり始めた。



 飲み会というものはいつでも発生する。だれかが退社するから送別会だとか、取引先との打ち合わせだとか、仲を深めるための親睦会だとか。たとえそれがクリスマスの夜であっても、だ。

 プロジェクトが終わったのが今日の20時。それから上司に流され飲み会なるイベントが発生した。それはいつものことだからいまさら文句はない。今日が12月24日でなければ。俺は本来ならば家に帰りゆっくりとクリスマス特番でも見ているはずだった。

 飲み会が終わると帰る方向が同じというだけで先輩を介抱する役割を押し付けられた。先輩は美人で仕事もでき、人間として尊敬しているが、アルコールには強くない。というのにいつも居酒屋をマラソンの給水地点と間違えているのではないかという勢いでがぶがぶと飲むものだからいつもお手洗いに顔を突っ込んでいる。今日は金曜日ということもありいつもよりいっそう人通りが多い。なぜだ。なぜカップルがイチャついている中をいまにも吐きそうな先輩を抱えて歩かなきゃいけないんだ。

 もうタクシーに放りこんでしまおうかと思い始めた瞬間、先輩が口を開いた。

「……ねえ、ホテルいこうよ」

「え?」

 聞き間違いか?そうに違いない。俺もアルコールが入っているから正確に聞き取れた自身はない。そういうことにしておこう。

「ねえ、そこのホテルだって」

「……飲みすぎですよ」

「もうあんま酔ってないよ。もうだいぶ吐いたもん。」

 俺の足はなぜかコンビニを経由してホテルへと向かったのだった。



「先輩、僕さきにお風呂に入りますね」

「いってらっしゃーい♪」

 カラオケに往年のアニメソングを入れようとしている先輩を横目にシャワーを浴びる。

 据え膳食わぬはなんとやらという先人の残した愚かな言葉に従うべきではないだろうと俺の理性が告げていた。酔っていないなどと本人は言っているが吐いたとはいえまだアルコールは相当体に残っているだろう。どうすればよいのかわからずいつまでもシャンプーで頭をいじめ続けた。

 とりあえずシャワーからあがりベッドに腰かける。先輩はお茶を飲みながら僕がコンビニで買ってきていたコロッケを頬張っていた。

「一応食べられるくらいには回復したんですね、よかったです」

「いやあ、ここまで運んでくれてありがとうね」

「いえいえ」

 とりあえず社交辞令を返す。そうしないと間が保たないと感じたからだ。

「ん、これ普通のコロッケかと思ったらカニクリームコロッケなんだ」

「そっちのほうがなんとなくお腹に優しそうかなと思って」

「じゃあ油ものじゃないほうがよくない?」

「僕もお腹が減ってたんですよ」

「まあいいや、外から中身が分かんなかっただけで普通においしいし」

 先輩は食べ終わると歯磨きをしに洗面所へ向かい、帰ってくるなりベッドに飛び込んだ。

「おやすみ!」

「え?」

 寝るの?本当に?そういうことをするわけではなく?

 ぽかんと口を開けて固まっている僕に先輩は不思議そうな顔で聞いた。

「どうしたの?」

 さきほどより頭痛が強くなっている気がする頭を押さえながら僕は口を開く。

「なんでここに来たんですか?」

「早く寝ないと日付変わっちゃうよ?」

「日付となにか関係が?」

「24日の間に寝ないとサンタさんが来ないじゃない」

「…………?………………?」

 この人はもしかしてこの歳までサンタを信じているのか?

「ええっと、この場所まで来た理由は?」

「家に帰ってたら24時過ぎるから。」

 先輩は実家暮らしだったな、などとどうでもいいことを思い出した。

「あ……え、っと……。」

 僕がなにか口に出そうとする前に先輩はもう寝息を立てていた。

 それを見た僕は今日の疲れがどっと出てきたような気がして先輩の方を向かないよう気を付けながらベッドへと入ったのだった。



■■■■

 おはよう榊くん。枕元を必死に探してみたんだけどサンタさんはどうやらやってこなかったみたい。たぶんおうちに帰ったらあるんじゃないかな?サンタさんもいきなり今年はホテルに来てくださいなんて言われたら困るもんね。そのことを考えてなかったよ。今年のプレゼントはあとの楽しみにとっておくよ。

 …………。ところで榊くん。不思議に思わなかった?クリスマスにホテルの部屋が空いてるなんて。普通ホテルはクリスマスには君が昨日羨ましそうに、いや恨めしそうに見ていたカップルたちの予約でいっぱいなんだよ。どういうことかわかる?……ふふっ。コロッケと一緒か。外から中身はわかんないよね。

そういえば土曜日だし、今日は一日暇だよね、榊くん。

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