6 新宿編



◇◇


アニム王からステータス画面の情報を伝えられ、部長はすぐさま情報を共有し、これを全部署、全警察署、行政機関などへ伝えるように支持を飛ばした。

だが、少し遅かったようだ。

いや、早く伝わっていてもどうしようもなかっただろう。


「部長! 電話がつながらなくなっています!」

「あ、51番の監視カメラが・・あ、こちらも・・あっちも・・」

次々と電源が落ちていく。


「一体どうなっているんだ?」

あの男・・アニムと言ったか。

確かにステータス画面などと、全く予期しなかった状況が起こりつつあるようだ。

まるでゲームのような感じだ。

だが、どうすればいいのだ。

部長はそんなことを考えていた。


状況を受け入れれたのは、さすがだった。

だが、それを生かせるタイミングはすでに過ぎ去った後だった。

「部長!」

若い男が息を弾ませて、駆けつけてきた。

「なんだ?」

「はぁ、はぁ・・あの男、青いマントの男が見当たりません」


!!

「何だと?」

どこへ行ったというんだ。

どこにも逃げられるところはないはず。

それに5階だったはずだ。

外に出られるわけもない。


いや、今はそんなことよりもこちらの方が優先だ。

「わかった。 お前はご苦労さんだったな。 少し休んでくれ。後はこちらで対処する」

「はい・・」

若い男はそう返事をすると、建物が大きく揺れた。


グラ・・ガガガガガ・・・。

ドドド・・・・・・・。

・・・・・

「「「な、なんだ地震か?」」」

みんながその場で固まった。


扉を開けて外へ出ようとした女の子が、扉を開けた瞬間に消えた。

それを見ていた男が驚いて、急いで駆け寄った。

!!!!

扉の向こう側の床がなくなっていた。

右側の方を見ると、大きな黒い塊が見える。

ズズズ・・・と引きずられる音がする。

黒い大きな塊が遠ざかっていく。

その先には建物よりも大きな生き物が見えた。


!!!!


あまりの衝撃に声を失っていた。

「おい、どうした」

背中から声が聞こえる。

「おい!!」

声をかけながら近寄る同僚。

だが、同じ目線で外を見ると同じように固まった。


一つ目の大きな巨人が、黒い塊を振り回し始めていた。


サイクロプス:レベル41。

サイクロプスの進行方向に邪魔な大きな石の建物が多く見える。

歩いていても邪魔になる。

初めはぶつかりながら歩いたり、壊したりしていた。

だが、段々とうっとうしくなってきた。

手に持ったハンマーを振り回して建物にぶつける。

これが案外よく壊れて、適度のストレス発散になった。

・・・見える限りを壊しだしたようだ。


「おい、何が起こっているんだ!」

部長は固まっている男たちに近寄っていった。

男たちと同じ目線になった時に、手に握っていた書類を落としてしまった。

「・・・・・・・」

誰も声を出すことができない。

サイクロプスの目が部長たちの方を見た。


その場でサイクロプスを見ていた全員がビクッとなった。

サイクロプスのハンマーが大きく回って、黒い塊が一気に迫って来た。


壊滅した警察署の地下5階に、テロ対策課と呼ばれる部署があった。

新しく新設された組織。

現役の警察官でも知らないものが過半数以上だろう。

若い所長、40歳の男がいた。


見た目は30歳前半でも通るだろう。

「泉課長、地上は壊滅したようです。 どことも連絡が取れません」

「そうか・・ご苦労様でした。 後は自分たちのステータスを確認して、これからの対策を考えてください」

部下からの報告を受けて、支持を飛ばしていた。

泉進(いずみすすむ)、テロ対策課に抜擢されたエリート官僚。

父親は元大臣経験者で、今は現役を退いているが、知る人ぞ知る大ボスだ。

初めは親の七光りかと思われていたが、まずまずの人気を集めている。

その甘いマスクと地域住民との頻繁な接触が好感されたのだろう。


「地上は放棄した方がいいだろうな。 また、地下3階付近で防御壁を落としておいた方がいいかもしれないな・・」

泉課長はそう周りの部下たちに言っていた。

「しかし、地域住民の避難誘導などを・・」

泉課長はそう発現するものを凝視した。

男は黙った。

「君、今の現状がわかっているのか? 我々が完全武装で出動しても、役に立たないだろう。 もはや、昨日までの世界はないと思った方がいい」

泉課長の判断は正しい。


だが、その発言の意味は想像とは違うだろう。

泉にしてみれば、地域住民など自分の人気集めの票に過ぎない。

行く行くは、自分も政治家に転向しようと考えていた。

その矢先にテロ対策課への転身があった。

それを踏み台にして、一気に権力を作ろうと考えていた。

それが、こんな状況になってしまった。


ほんの2時間ほど前に、ステータス画面のことを聞かされた。

そんなバカな・・誰か夢でも語っているのかとも思っていたが、泉も現代に生きる人で、異世界ものなどは結構興味があった。

迷わずにステータスオープンと言ってみた。

ススム:レベル3。

そう表示された、半透明の画面が目の前に現れたのだ。


すぐに受け入れることができた。

そこからはテツなどと違う行動に出た。

すぐに周りの部下たちとパーティを組み、部下たちに地上の現状を探らせに行かせた。

泉の固有スキル:統率があった。


泉は、自分を中心として複数パーティを組ませた。

泉一人に対し、4~5人ずつのパーティを組ませる。

どのパーティにも自分を入れていた。

ただ、5つのパーティを同時に組むのが限界のようだ。


部下達は、最高でも4人でパーティを組むことになった。

「新選組なんかでも、見回り組では少数で組んで行動してたみたいだ。 君たちも訓練を受けた精鋭だ。 よろしく頼む」

そう声をかけ、その選別はうまく組み合わせていた。

戦闘職2名と魔法職1名、後は回復系1名といった具合で組ませて、それに必ず自分を入れる。

泉は事務所で居ながらにして、多数の経験値を得られる仕組みだ。


選ばれたパーティを組んでいる者たちも、泉の巧みな口調に迷うことなく自分のアイデンティティを刺激され、むしろやる気を起こして行動した。

完全武装して地上へ出て行く。

初めはそれほどレベルの高い魔物もおらず、隊員たちの基礎レベルもみな5~6位だ。


ゴブリンやロンリーウルフ、複数で攻撃をすれば、ワーウルフすらも倒せていた。

そのうちにリザードマンやガーゴイル、オークなどが出てきたが、対処できるものもいた。

だが、オーガなどが出没するようになると、ほとんどが全滅しだした。

かろうじて生き延びて帰ってくるものいたが、当初の1/3ほどまでに減ってしまった。


今、泉のいる部署に存在している隊員は10名ほどになってしまった。

回復系のものもいるため、負傷したものなどはほとんどが回復している。

レベルも16前後まで皆上がっていた。


泉は動くことなく、レベルを19にしていた。

予定通りだ。


この男の頭の中には、どの人間も自分のための糧くらいにしか映っていないだろう。

だが、人と接触するときには、本気で泣いて笑って、相手の心をくすぐる。

昔の戦史などで言うならば、呉氏の戦略だろう。

兵士が傷つき、足が膿んでいたら、呉氏がその兵士の前に膝をついて、その膿をすすって傷を拭ってやったという。

兵士はこれに感動して、呉氏のために一層命を懸けて戦うことだろう。


そういったことを平気で行える男だった。

意識して行うこともあるが、無意識に行うこともある。

だからこそ、人からの人気を集めていたのだろう。


泉は戦士→参謀になっていた。

まさに天職。


地上はもはや大混乱、パニックだった。

聞こえる声と言えば、悲鳴と建物の崩れる音がばかり。

人の固まりが、右往左往という言葉がふさわしく動いている。

魔物が情け容赦なく人を狩っている。


頭に角の生えたものや、背中に翼をまとうもの。

人間を追いかけまわっていた。

あるものは車ごと上空へ連れ去られ、そのまま落下させられたりした。


人たちは、はじめ何かの撮影かと思ったようだ。

突然、新宿3丁目、都営地下鉄の駅入り口から魔物が現れた。

背中に翼を持ち、トカゲの大きな感じの魔物が2足歩行している。

横には狼のような大きな犬が従っていた。


魔物は立ち止まり、空を見上げた。

突然、大きな声を上げた。


「ギェェエエエエエェエエエエエ!!!」


すぐに空に魔物たちが溢れてきた。

大きな狼も声を上げた。


「ワアァオオオオオオォオオオン!!!」


周辺にいた人たちは動けなくなった。

みるみる魔物が現れてきた。

子どものような大きさだが、ナイフのようなものを持っている。

やはり撮影か何かなのか?

誰も疑問を持つことはできなかっただろう。

世界が変わってしまったなどとは思えるはずもない。


大きな犬の叫び声を浴びた、近くの人たちは動くことができない。

嫌な汗が流れる。

声も出せない。

魔物・・ゴブリンがゆっくりと近寄ってくる。

動けない人たちはナイフを見つめつつ、

「まさか、あれで刺されはしないよな・・」

硬直したままそう思った。


期待は裏切られた。

ゴブリンは迷うことなく一人の男の胸を貫いた。

男は声も出すことができず、口から血を流して、その場に倒れた。

周りでは動けない人たちが、その状況だけを見ていた。

!!!

次は自分のところじゃないよな?

そう誰もが思っただろう。


やや離れたところに若い女の子グループがいた。

動けるようだ。

大きな声がした方へ駆け寄ってきたみたいだ。

スマホを片手に、はじめは撮影しようとしていたが、男の人が倒れるのを見てスマホを落としてしまった。


「きゃぁああああああああ!!!!」


その叫びが始まりのようだった。

その辺りにいる魔物たちが一斉に動き出した。

狼のような犬よりもやや小型なロンリーウルフが動き出した。

魔物にすればどこをみても獲物だらけだ。


一方的な虐殺が始まった。


逃げ惑う人々。

それを追いかける魔物。

まるで、池に石を投じたときの波紋のように広がっていった。

魔物も次から次へを現れる。


テツがいた場所よりもレベルの高い魔物が多く現れた。


地上から人間の姿が消えるのには、それほど時間はかからなかった。

次第にレベルの高い魔物が現れるようになってきた。

バジリスクやスフィンクス、ミノタウロスなどの魔物が現れてくる。

1体だが、サイクロプスのようなレベル40を超える魔物もいる。

高レベルの魔物は、人も魔物も関係なく排除していた。


公平といえるだろう。

ただ、そういった高レベルの魔物は、アニム王の監視下で、手の届く範囲では即座に狩られてはいた。

新宿にまだアニム王がいたときの状況だった。


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