第34話 気功魔剣②

 福丸が、静に駆け寄り抱き上げると、盗賊達が一斉に得物を振り上げて、二人に殺到した。

 福丸が、持っていた手投げ弾を彼らに向かって投げつけると、白い煙が一気に噴き出し、辺りを覆いつくした。


「なんじゃこれは、何も見えぬぞ!」 


 盗賊達が右往左往する中、煙が晴れた時には、福丸と静の姿は何処にも無かった。


「逃げおったか。だが、あの傷では遠くへは行けまい、放っておけ。

 それより、田辺の代官所襲撃の準備を急げ、出陣じゃ!」


 その日の内に、幻鬼と三百の軍団は、龍神村に火を放ち田辺へと出発していった。



 その頃、竜神村近くの山中では、福丸が、静の傷の手当てをしていた。


「急所までは達していないが、傷は深い。暫くは動けまい……」

「申し訳ありません。幻鬼の気功剣は、気で捉えようとしても光跡が見えません。この事を蓮之助様達に伝えないと大変な事に……」

「分かっておる。今はしゃべるな、傷に障る」


 静は、荒い息をしながら、福丸の手を離さなかった。


 福丸は、仲間を呼ぶために狼煙を上げた。敵にも知られるが止むを得なかった。

 彼は静を背負うと、合流地点へと急いだ。


 一時ほどして合流地点に着くと、既に仲間の忍びが数人待っていた。福丸は、静を医師の居る街まで運んでくれるよう頼み、自分は、和歌山城の蓮之助の元へと走った。


 福丸は、夜中も走り通した明け方近くに、五十人程の武士の一団に出くわした。


(敵か?!)


 それは、配下の者から連絡を受けて、田辺に向かっていた蓮之助達だったのだ。


「有難い!」


 福丸は息を切らしながら、蓮之助に報告した。


「静の命に別状なくてよかった。静ほどの者を倒すとは、相手は誰じゃ」

「盗賊の統領で、猿飛幻鬼と申す者に御座います。彼も、気功剣を使います」

「幻鬼は、私が破門した一番弟子で御座る」


 傍にいた仁助が、暗い表情で蓮之助に告げた。


「彼の気功魔剣は、気で捉えようとしても、光跡が見えないと静が言っておりました」

「気功剣の光跡が見えなければ、何時、何処から気功剣が襲ってくるか分からん。それでは、防ぎようがないではないか。華はどう思う?」 

「恐らく、彼は、一つの気功剣に全ての力を集中して超高速で動かしているのだと思います。本物の刀を気功で操って敵を撹乱した上で、気功魔剣で止めの一撃を加えるのではないでしょうか?」

「なるほど、それなら合点がいくな。気功剣の動きが速いとなると、空気の乱れを察知していては間に合わぬ。一太刀受けるを覚悟で、戦うしかないのか?」


 彼らは歩きながらも、気功魔剣の対応策を練っていた。道は、曲がりくねった海岸線に入り、碧い海が何処までも広がっていたが、彼らに、その景色を楽しむ余裕はなかった。


「奥方様、私と戦った時の、気功盾を使えば何とかなるのでは?」 

 仁助が進言すると、華が頷いた。


「よし、代官所が心配じゃ、田辺はすぐそこだ、急ぐぞ!」 


 蓮之助一行は、大地を蹴って走り出した。



 一時ほど駆け通し、蓮之助たちが田辺の代官所に着いた時には、既に盗賊数百人が、代官所を取り囲んでいた。


「蹴散らせ!」


 蓮之助の号令で、五十人の精鋭は、鬨の声を上げて盗賊団のど真ん中に斬り込んで行く。

 俄かの鬨の声に驚いた盗賊達だったが、数で優位と分かるや、猛然と迎え撃って来た。


 刀も抜かずに、先頭を突き進んで来た蓮之助が、右腕をブンと水平に振り抜いたのが、盗賊達の目に映った。

 次の瞬間、最前列を走っていた盗賊たちが、壁が崩れるように倒れると、勢い余った後続の者たちは、倒れた仲間に躓き次々と転倒していった。

 蓮之助の、気功自在剣が放たれたのだ。


 そこへ、猿飛仁助の気功弾が雨あられと降り注ぎ、起き上がろうとしていた盗賊たちを叩きのめした。


 見えない何かに、次々と倒されていく仲間を見て、盗賊達は恐れ戦いた。

 蓮之助の軍は、追撃の手を緩めることなく攻め続け、半時も経たぬうちに勝負は決した。



 広場の中央では、華と猿飛幻鬼が睨み合っていた。


「ふん、蓮之助が相手ではないのか? ならば、自分の妻が血反吐を吐くところを、見るがいい」


 幻鬼は、毒々しい含み笑いを浮かべた。


「御託はいいから早く終わらせましょう!」


 華の言葉にムッとした幻鬼は、いきなり刀を投げ上げ、それを気功で操って華を襲った。華は瞬時に刀を抜いてその刀を叩き折り、同時に、気功の盾で我が身を包んだ。

 その刹那、幻鬼の気功魔剣が気功盾に命中し、彼女はその衝撃で、後方に弾き飛ばされてしまった。



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