第18話 鉄化巨兵

「あの連発銃を封じ込まねば、手出しが出来ませぬ!」


 福丸が蓮之助の傍に来て、指示を請うた。


「うむ。……そうじゃ! 里の入り口にあった大筒を運んで来てくれ、あれなら巨兵を倒せるかも知れぬ!」


「承知!」


 鉄化巨兵が徳川勢の目の前まで迫った頃、福丸が指揮する一隊が、土煙を上げて大筒を運んで来た。


 狙いを定めた五門の大筒が一斉に火を噴き、進撃してくる鉄化巨兵に炸裂すると、さしもの彼らの硬い装甲も砕け、吹き飛んだ。  


「おお! 大筒なら倒せるぞ! ありったけの弾を撃ち尽くせ!!」


 大三郎の叫びに、徳川勢は歓声をあげて勢いづいた。



 大筒の弾を打ち尽くして、濛々たる噴煙が収まってみると、まだ半数の巨兵が無傷で残っていた。更に、大筒で倒したはずの巨兵達も、破壊された鎧を脱ぎ捨てて次々と立ち上がって来たのだ。

 彼らは、長身の異人だった。その目は、非情な獣のように光っていた。


「何て奴らだ、彼らは不死身なのか?」


 蓮之助達が唖然とする中、


「敵の大筒は弾切れじゃ。お前達を遮るものは何も無い。進撃せよ! 皆殺しじゃ!」


 神太郎の号令が轟いた。


「「ウガーッ!!」」


 巨人たちは野獣のような奇声を上げながら、巨大な青龍刀を振りかざして、徳川勢に突進して来た。

 それを迎え打とうとした徳川勢だったが、巨体から振り下ろされる青龍刀の前に、刀は折れ、身体はボロ切れのように引き裂かれた。


「何という力だ、それに動きが半端なく速い。一人では敵わぬぞ大勢でかかれ!!」


 蓮之助の叫びに、徳川勢は五人一組となって巨人に挑んだ。

 彼らは、後方から巨人の足に組み付いて転倒させてから、皆で襲い掛かかり仕留めていった。

 だが、徳川勢の兵力は六十余名と半減しており、戦闘力の高い巨兵軍団に、次第に追い詰められていった。



 その時、里の入り口にある谷を塞いでいた巨大な石垣が爆破されて、数百の徳川軍が、鬨の声を上げて雪崩込んで来たのである。


「おお、天の助けじゃ! 援軍が来たぞ、押し返せ!」


 大三郎に背負われた蓮之助が突進すると、徳川軍は怒涛の進撃を始めた。

 鎧を脱いだ巨兵達は、数で勝る徳川軍の猛攻の前に、次々と巨体を沈めていったが、残った二十数体の鉄化巨兵を倒すことは出来なかった。


「既に大筒の弾は尽きています。あの硬い装甲を破壊しない事には、いかな多勢でも勝ち目はありませぬ!」


 大三郎が蓮之助を支えながら、進軍してくる鉄化巨兵に絶望の声を上げた。


「華! 華は居るか!?」


「ここに!」


 蓮之助の後ろに居た華が、彼の傍に寄り添った。


「あの装甲を斬れるのは、お前の気功王剣しかない。お前も疲れていようが、やってくれるか?」 


「心配いりません。まだまだ戦えます!」


「うむ。相手も多い故、兜のみを割ってくれればあとは儂達が片付ける」


 目に包帯を巻いた華の顔が厳しくなると、背中に背負った二刀を抜き放つが早いか、踝を返して鉄化巨兵に突進していった。


「福丸! 華を頼む。大三郎! 大八車に儂を乗せてくれ、気功剣であいつらを倒すぞ」


「承知!」


 機関銃を打ち尽くしていた巨兵達は、青龍刀を振り上げて、先頭を行く福丸と華の周りに群がった。


 福丸が自在の動きで、鉄化巨兵を撹乱する中、華は、巨兵の肩に飛び乗っていた。巨兵が華を振り落とそうと手を伸ばした刹那、彼女は飛び上がり様に、剣に気功を込めて振り下ろした。


「パン!」


 巨兵の頭を覆った兜が割れて、中から非情の顔が現れた。


 華は、福丸と連携しながら、巨兵の肩から肩へと飛び移り、気功王剣で次々と兜を割っていった。



 一方、蓮之助は、伊賀者が押す大八車に乗って、兜を割られた巨兵の頭を気功剣で攻撃していった。青龍刀での凄まじい反撃もあったが、遠くから攻撃出来る、気功剣には及ばなかった。


 徳川軍も蓮之助に続いて懸命に戦い、半時の死闘の末に、終に鉄化巨兵を全滅させることができたのである。


 何時の間にか、神太郎の姿は消えていた。


 徳川の兵たちは力を使い果たし、その場に倒れ込んだ。



 巨兵の骸を見ていた福丸が、驚きの声を上げた。


「蓮之助様! 巨兵達が涙を流して死んでいます!」


「この巨人たちは、異国の奴隷達だろう。この国に買われて来て、非情な戦士に仕立て上げられたのだと思う。死ぬ前に人の心を取り戻し、故国の事を思って死んだのかも知れぬ。……可哀想な人達だ、懇ろに弔ってやろう」


 蓮之助は手を合わせて法を唱え、その冥福を祈った。 





 

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