第17話 風魔の里へ

「柳生様、その身体で風魔と戦おうというのは、無茶というものです。

 徳島であなた方は、我らに止めを刺さなかった。お陰で多くの命が救われました。今度は、我らがあなた方を護ります!」

 

 伊賀忍者の小頭風の男が、膝をついて頭を下げた。


「かたじけない。だが、こんな姿だが儂たちは十分戦える。我らが攻める故、それに乗じて秀忠様を探してもらいたいのだ。頼めるか?」


 将軍秀忠を、何としても救って見せるとの蓮之助の気迫が、伊賀の衆に響いた。


「……承知!」

 


 蓮之助達は、決死の覚悟で一気に山を駆け下り、麓に着いた。


 そこには、五十人程の弓隊と五門の大筒が、里を背に防御の体形を取っていた。夜中ではあるが、満月のお陰で人の動きはよく見えた。


「福丸、煙幕を!」


 蓮之助の合図に、福丸は、用意していた煙幕弾を次々と敵陣目掛けて打ち込んだ。

 それを察知した敵陣から、一斉に矢が放たれ、大筒が火を噴いた。だが、蓮之助たちの居場所が分からぬ彼らの攻撃は、見当はずれの所を狙うばかりだった。


 白い煙幕が辺りを包む中、蓮之助達は音も立てずに敵陣の背後に回り、一気に斬り込んでいった。


 煙幕で視界が遮られてはいたが、心眼を開いた華と蓮之助には、敵の動きが手に取るように分かった。華が、気功剣を駆使して、弓隊、大筒隊の腕や足を斬りまくると、大三郎に背負われた蓮之助も、負けじと、彼女に襲い掛かる風魔を蹴散らしていった。


 暫く経って煙幕が晴れてみると、弓隊は総崩れで、大筒隊も、立っている砲主は一人もいなかった。


 蓮之助達が残った敵を蹴散らす内、伊賀の軍団は、風魔の里深く進攻していった。



 そこへ、鎧に身を包んだ徳島藩の精鋭百名が、息せき切って姿を現した。


「おお、徳島藩の方々か、よくぞ来てくれた。この先はいよいよ風魔の本陣だ。秀忠様奪還の為、共に心を合わそうぞ!」


「「承知仕った!!」」


 負傷しても尚、戦おうとする蓮之助たちの気迫に、徳島藩の精鋭たちの闘志は、いやが上にも燃え上がった。



 徳島藩の精鋭に護られて、蓮之助達が風魔の館まで来ると、伊賀軍団と風魔軍団が激戦を繰り広げている最中だった。


 そして、館の二階からは、首領の風魔神太郎が紫の装束に身を包み、鋭い目を蓮之助に向けていた。



 蓮之助達と徳島藩の精鋭が加勢に入ると、風魔軍団は逃げ散ってしまったが、頭領である神太郎は、不敵な笑いを見せて動こうとはしなかった。


「お前が柳生蓮之助か? もはや、お前の命など最早どうでもいいのだが、せっかくここまで来てくれたのだ。最大の礼を持って歓迎させて頂こう。

 出でよ! 我が風魔の最強軍団、鉄化巨兵!」


 ズン! ズズン! ズズン! ズズン! ズズン!


 神太郎の合図で地響きと共に現れたのは、身体全体に鋼鉄の鎧を纏った、五十体もの巨人軍団だった。

 月夜に照らされた鋼鉄の鎧が不気味に光り、七尺【二百十センチ】はあろうかというその大きさと異様さに、徳川勢はズズッと後退りした。


「な、何なんだこいつらは? ……怯むな! かかれ!!」


 徳川勢が鬨の声を上げて巨人たちに挑んだが、彼らの刀や手裏剣は、硬い装甲に悉く跳ね返され用をなさなかった。更に、蓮之助の気功剣までも、彼らに傷一つ付けることは出来なかったのだ。


「くそっ! あの鋼鉄の鎧は、気功剣では斬れないのか!?」


 蓮之助は、大三郎の背中で歯噛みしていた。


 巨兵軍団は、右手に青龍刀を左手には機関銃を持っていた。その機関銃が一斉に火を吹くと、徳川勢はなす術もなく、弾丸の餌食となってバタバタと倒れていった。


「はっはっはっ、どうじゃ鉄化巨兵の威力は? 巨兵達よ、徳川の雑魚どもを踏み潰せ!!」

 

 勝ち誇ったような神太郎の合図で、巨兵軍団は、機関銃の凄まじい音を響かせながら、一斉に進撃を始めた。


「全員一旦引け!! 無駄に命を落とすな!」


 蓮之助の叫びに、徳川勢は必死に後退して物陰に隠れた。


 彼らが振り返ると、目の前には多くの仲間の骸が転がっていた。


 

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