第39話 一件落着、からの……

 一時間後――


「僕は……なんてことを……っ」


 目を覚ましたザックが、虚ろな瞳で言葉を漏らす。

 どうやら、四魔族レヴィの魂から解放されたことで、正気に戻ったようだ。


「ザック副隊長、お前は四魔族に操られていただけなのか? それとも……」


 問いかけるスミレ。

 ザックに魂を乗り移らせていた四魔族レヴィは、契約という言葉を口にしていたからだ。


「スミレ隊長、僕は……怒りに支配され、ヤツの魂を受け入れて、あなたとクロノに復讐しようと考えました……」


「……そうか」


 ザックの言葉を聞き、複雑な表情を浮かべるスミレ。


 自分の部下が、正気ではなかったとはいえ、自らの意志で四魔族の魂を受け入れた。

 そしてこのような事件を引き起こしたという事実を知れば、そんな反応も当然だ。


「ザック副隊長……いや、ザック。お前を騎士団で拘束する」


「…………はい」


 スミレの言葉に、ザックは顔を俯かせて大人しく応じる。


 ◆


「クロノ君、本当にありがとう。そして謝りたい、まさかこんな事態に発展するなんて……」


 応接の間で、クロノに頭を下げるライル。


 そんな彼に、クロノは――


「いや、我輩も解放された魂がどうなるのか、そこに疑問を抱かなかった。それに、アリアフィーネたちが無事だったのだ。問題はない」


「ありがとう。……しかし、復活した四魔族まで倒してしまうなんて……」


「四魔族と言っても、ヤツはザックの体に乗り移っていただけで、完全な復活を遂げてはいなかったからな。本来であれば、もっと手強いのだがな」


「…………まるで、他の四魔族と戦ったことがあるような言い方だね」


「まさか、我輩はまだ子どもだぞ?」


 飄々とした様子でそう答えるクロノに、ライルは苦笑してしまう。


 解放された四魔族レヴィの魂はクロノが駆逐した。

 ザックは騎士団へと連行され、怪我を負ったスミレや、瀕死だった門番も一命を取り留めた。


 これにて、一連の事件はひとまず解決を見せる。


「そうだ、娘を――シェリルを四魔族の魂から解放してもらったお礼をしなければね。約束通り、僕の持つ全ての財産を――」


「ライル殿、礼はいらない」


「ク、クロノ君……そういうわけには……ッ!」


「シェリルは冒険者仲間であり、我輩の友だ。我輩はただ友を助けたまで、それに礼など受け取るつもりはない」


 キッパリと言うクロノ。


 それでもライルは食いついてくる。

 大切な娘を二度も救ってもらったのだ、何としても礼を受け取ってもらわねば……! と――


「むぅ、そういうことなら……今後、我輩の願いをなんでも一つ聞いてもらうというのはどうであろう?」


「なるほど……クロノ君ほどの実力者からの願い事を何でも一つ、か」


 クロノのからの提案に、ライルは頷く。


 彼ほどの――クロノほどの力があっても、他者に頼らなければならないような願い事。

 それを何でも聞くというのは、大事どころの話ではないだろう。


 財産を受け取ってもらえないというのであれば、ライルは喜んでそれを受け入れる。


 ……もっとも、クロノとしては財産を受け取らないために、咄嗟に用意した代案なだけであり、今後ライルに何かを頼ろうという気は毛頭ないのだが……それはさておく。


 ◆


 夜――


 ライルとのやり取りを終え、借家へと帰ってきたクロノ。


 今日は疲れたので、アリアフィーネと一緒に露天風呂に入り、そのまま眠ってしまおうとベッドルームにやってきた……のだが――


「アリアフィーネ、これはどういうことだ……?」


 呆れた様子で、クロノがベッドの上を見つめ、言葉を漏らす。


 ベッドの上には――


「クロノ様ぁ……」


「クロノちゃん……」


 ――切なそうな表情を浮かべた、シェリルとスミレが座っていた。


 シェリルは純白のベビードール、スミレは淡いピンクのベビードールを身に纏い、二人の頬は赤く染まり、恥ずかしそうに太ももをモジモジと擦り合わせている。


 クロノは二人を家に上げた覚えはない。

 とすれば、二人を招いたのはアリアフィーネとなる。


「ご主人様、二人を抱いてあげてくれませんか?」


「は…………?」


 アリアフィーネの言葉に、間の抜けた表情を浮かべるクロノ。

 そんなクロノに、アリアフィーネが言葉を続ける。


「ご主人様、スミレさんは四魔族に操られたザック隊長の凶刃から、わたしを命がけで守ってくれました。彼女の想いは本物です。そして、シェリルさんはご主人様に二回も救われました。ご主人様のことを、愛してしまうのは当然かと思います」


 そしてそんな二人を、わたしは受け入れることにしました――


 アリアフィーネは、そう言い切った。


「し、しかしだな、アリアフィーネ……」


 戸惑った様子を見せるクロノ。

 そんな彼に、アリアフィーネは再び口を開く。


「ご主人様はAランク冒険者になりました。それはつまり、五爵位の男爵と同じ権利を持つことになります。優秀な殿方は、たくさんの女性を抱いて、その種を広める義務があるのです」


 と――


「クロノ様、わたくしではダメですの……?」


「頼むクロノちゃん、君が愛しくて愛しくて、たまらないんだ……」


 ベッドの上から立ち上がり、そっとクロノに触れてくるシェリルとスミレ……。

 そして、優しく微笑むアリアフィーネ……。


 迫りくる三人の美少女たちに、クロノは――

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