第38話 聖獣VS四魔族

「気をつけてくださいご主人様! ザック副隊長には四魔族の魂が宿っています!」


(ち……っ、嫌な予感は当たったか!)


 アリアフィーネの声に、クロノの表情が歪む。


 やはり迷宮で解放した四魔族の魂は消滅してなどいなかった。

 それがこのような形で、知り合いの体に宿るとは……。


 だが、だからといって、四魔族という危険な存在を野放しにするわけにはいかない。

 クロノはザック――レヴィに急接近し、《聖獣剣》を振り上げる。


『グゥ……!?』


 呻き声を漏らすレヴィ。

 剣でクロノの攻撃をガードするも、後ろへと大きく後退する。


「ほう、吾輩の攻撃を受けて剣が折れぬか。やはり四魔族の魂が乗り移っているというのは本当のようだな」


 紫色のオーラを纏った剣を見て、クロノが感心したかのような声を漏らす。


 通常の剣であれば、クロノの攻撃による衝撃で、剣身が折れているところだった。

 クロノの記憶によれば、四魔族は通常の武器を〝魔武器化〟する能力を持っている。

 今、レヴィが持っている剣は、その能力によって魔剣と化しているのだ。


『クッ……! こうなれば出し惜しみはなしでございます!』


 レヴィが叫ぶ。


 するとその背中から、爬虫類を思わせる巨大な二本の腕が生えてきたではないか。


 二本の腕を使い、攻撃を仕掛けてくるレヴィ。

 クロノは軽やかにステップすることで、それらを回避する。


 標的を失った腕が、地面をバターのように抉り取る。

 いかにクロノと言えども、これを喰らっては大怪我は免れないだろう。


『ならばこれでどうでございます!』


 クロノが着地したタイミングで、レヴィが魔剣を振るう。

 すると魔剣から、紫の斬撃が数発射出されたではないか。


「ほう、飛ぶ斬撃か」


 言いながら、クロノが左手の《覇魔銃》を構える。

 そして飛来する斬撃に魔弾を放ち、その全てを打ち消した。


『こ、こんな馬鹿な! 貴様、何者でございます!?』


 四魔族である自分の攻撃を軽々と無効化され、レヴィが驚愕のあまり叫ぶ。


「四魔族ごときに名乗る名はない」


『ク、クソがぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!』


 人間の子どもに四魔族〝ごとき〟などと見下され、レヴィが激高する。

 再び魔剣を振り払い、飛ぶ斬撃を放ってくる。


 飛来する斬撃を魔弾で打ち消し、それでも間に合わない分は《聖獣剣》で叩き斬る。


 飛ぶ斬撃の嵐の中、レヴィが背中の巨腕を振り上げ、飛びかかってきた。

 クロノが飛ぶ斬撃を打ち消すのに精一杯だと判断したのだろう。


 しかし、それしきで狼狽えるクロノではない。

 左手で《覇魔銃》、右手で《聖獣剣》を扱いつつ、その場で回転すると、飛びかかってきたレヴィの腹に、回し蹴りを叩き込んだ。


『グァぁぁぁぁぁぁぁぁ――ッ!?』


 予想だにしない衝撃に、レヴィが悲鳴を上げる。そしてそのままの勢いで、庭の柵に叩きつけられた。


「よ、四魔族を相手に圧倒するなんて……」


 シェリルのポーションによって、回復したスミレが、呆然と声を漏らす。

 彼女を抱えながら、シェリルも、そしてアリアフィーネさえも目を見開いている。

 反対側から戦闘を見守っているライルとその使用人たちも同様だ。


「さぁ、終わりだ」


 柵の前で蹲るレヴィに、クロノが《覇魔銃》を向ける。


『ま、待て! そ、そうだ! 少年よ、こちら側につく気はございませんか? 君ほどの実力なら、高待遇で迎え入れましょう! そうすれば富も権力も――』


 ドパンッッ!


 苦し紛れのレヴィの言葉を遮るように、クロノが魔弾を放った。


 再び肩を撃ち抜かれ、レヴィが『イギャァァァァァァッッ!?』と、苦しげな悲鳴を上げ、魔剣を手放した。


(くッ! ダメでございます、どうあってもこの者には……こうなれば!)


 意を決したように、レヴィが上を見る。

 するとその瞬間、レヴィの体が紫の輝きを放ち始めたではないか。


 輝きが増した次の瞬間、レヴィの――ザックの体が脱力したかのようにその場に崩れ落ちた。

 そしてその体から、紫のオーラのようなものが抜け出し、天に向かって上昇し始めた。


「させるかッ!」


 クロノが叫ぶ。


 それと同時に、その場から勢いよく跳躍する。

 レヴィがザックの体から抜け出し、魂となって逃げ出そうとしていることに気づいたのだ。


(ば、馬鹿な……ッ!)


 高く上昇したレヴィの魂が驚愕に震える。

 地上から、クロノが迫ってくるではないか。


 クロノの跳躍力は帝都の高い外壁を跳び超えられるほどだ。

 レヴィの魂のゆったりとした上昇に追いつけないはずもない。


「今度こそ終わりだ、四魔族」


『待っ――』


 レヴィの待ってくれの声を無視して、クロノは《聖獣剣》で……。


 斬――――ッッッッ!


 ……と、真っ二つに切り裂く。


 そしてトドメとばかりに、二つに割れた魂の両方に《覇魔銃》による魔弾を叩き込み、完全に消滅させた――


 ダンッ!


 地上に着地したクロノ。


 心配そうな表情を浮かべるアリアフィーネたちに、自信を感じさせる笑みを浮かべ、頷いてみせる。


「ご主人様……!」


 駆け出すアリアフィーネ。

 そしてそのままクロノを勢いよく抱きしめる。


「ず、ずるいですわ!」


「わ、私もクロノちゃんを抱っこしたいぞ!」


 シェリルとスミレも駆け出し、左右からクロノを抱きしめた。


 三人の柔らかな感触の中、クロノは「うむぅ〜〜〜〜!?」と、くぐもった声を漏らすのだった――

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