第25話 午後のひと時

 ギルドにて――


「それにしても、とんだ災難だったわね、クロノちゃん」


「まぁ、対処できたので、よかったとしよう」


 ――アーナルドとクロノが、少し疲れたような表情で言葉を交わす。


 とりあえず気絶したハリーたち四人をギルドへと連れてきたクロノたち。


 事情を聞くとアーナルドを始めとした職員たちは、罪人として、都市の騎士団へハリーたちを引き渡す手続きを進めてくれた。


 今は騎士たちからの事情聴取が終わり、ハリーたちが連行されていったところである。


 殺人未遂を犯したのだ。

 恐らく四人とも終身刑になるのではないか……と、担当した騎士の一人が話していた。


「ご主人様、お疲れでしょうし、奥の酒場で一杯いかがでしょうか?」


「む、そうだな、アリアフィーネ。……シェリルも一緒にどうだ?」


「もちろん、ご一緒させていただきますわ!」


 そんなわけで、ギルドの奥の酒場へと移動し、適当な席に着くクロノ、アリアフィーネ、シェリル。


 席に着き、適当に注文を済ませると、クロノがシェリルに切り出す。


「そういえば、シェリルよ。どうしてあの二人と冒険者パーティを組んでいたのだ?」


「クロノ様、それは……わたくしが家出をして冒険者ギルドに訪れた日に、あの二人が親切に接してくれたからですわ。今にして考えれば、初心者冒険者にあそこまで良くしてくれたことに、もっと不信感を持つべきでしたの」


(なるほど、温室育ちのお嬢様に、あの二人の下心や下卑た考えは想像もつかなかった……ということか)


 シェリルの話を聞き、クロノは察する。


「ところで、どうしてシェリルさんは家出なんて真似していたのですか……?」


「アリアフィーネさん、それは……ごめんなさい、言えませんの……」


 アリアフィーネの質問に、シェリルは何やら暗い表情を浮かべながら、小さな声で答える。


 何やら聞いてはダメな類のものであったようだ。


 だが、ここでタイミングよく三人分の飲み物と簡単なツマミが運ばれてきた。


 ひとまず、アリアフィーネとシェリルが新たな武具を使った戦闘の上達をできたこと。

 そしてハリーたち四人の魔の手から脱することができたことに、三人は「「「乾杯!」」」と、グラスをぶつけ合う。


 飲み物はアリアフィーネに勧められて以来、クロノの大好物となったミードだ。


 喉も乾いていたのもあったのだろう。

 クロノは一気にミードを半分ほど飲んでしまう。


「ふむ、やはり美味いな。それにさっそく頭がふわふわしてきたぞ」


「ふふっ、お顔が少し赤いですよ、ご主人様。……とっても可愛いです♡」


 ミードで少しだけ頬を赤くしたクロノを見て、アリアフィーネは恍惚とした表情を浮かべると、そのままいつものように彼を優しく抱きしめる。


「や、やん! だから、わたくしの前でイチャイチャするのはダメだと言ってますのに……っ♡」


 アリアフィーネの腕の中に抱かれながら、恥ずかしそうにミードを飲むクロノを見て、シェリルはまたもやアレな気分になってしまった様子。


 どうやら性癖として定着しつつあるようだ。


「お、なんだ、可愛いエルフちゃんたちじゃねーか。ちょっかい出してこようかな――」


「おいやめとけ! あの少年……クロノ君は、ハイオークを一撃で倒したんだぞ!」


「は……!? それマジかよ!? あ、あぶねー……下手したらボコボコにされるとこだったぜ……」


 アリアフィーネとシェリルの見た目に惹かれて、声をかけに行こうとした冒険者と、その近くにいた冒険者の間で、そんなやり取りが交わされる。


「ふふっ……どうやら、ご主人様の強さも、ギルドの中で噂になりつつあるようですね」


「クロノ様の強さをすれば、当然ですの!」


 アリアフィーネは嬉しそうに、シェリルは興奮した様子で、クロノの強さが認められている事実を喜ぶ。


 そんなこんなで盛り上がる中、頼んでいた料理が運ばれてきた。


「ほう、これは美味そうだな!」


 運ばれてきた料理を見て、クロノが瞳を爛々とさせる。


 料理名はホバール海老のグリルだ。


 ホバール海老とは、青の殻を持った、成人男性の腕ほどもある大きな海老の名だ。

 大きな体を持ちながらも、その味はとても芳醇であり、様々な食べ方がされている。


 この迷宮都市・リューインの近くには海があるため、毎朝新鮮なホバール海老が入荷するのである。


 そしてそのホバール海老を、このギルドの酒場では真っ二つに半身に割り、塩胡椒を振って、豪快にグリルしたものを提供するのだ。


 ホバール海老が乗った大皿には、たくさんのレモン、それにバターソースが添えられており、味を変えて楽しむこともできる。


「ご主人様、あ〜んです♡」


「んぐ…………おお! やはり美味いな!」


 アリアフィーネに「あ〜ん」してもらって、ホバール海老を頬張るクロノ。


 歯ごたえバッチリ、そして濃厚な味わいが口の中に広がり、瞬く間に幸せな気分になる。


「ず、ずるいですの! クロノ様、わたくしからも……あ〜んですわ♡」


 向かいの席に座っていたシェリルが、わざわざクロノの隣に移動してきて、バターソースに浸したホバール海老の身をフォークでクロノに差し出してくる。


 少し酔っているせいだろうか、それとも食欲が勝っているせいだろうか。

 シェリルからの「あ〜ん」に、特に抵抗を見せず、クロノはまたもやホバール海老を頬張る。


「む……やりますね、シェリルさん?」


「わたくしだって負けていられませんの!」


 アリアフィーネとシェリルが視線で火花を散らしながら、それでいて、二人とも楽しげに微笑みながら言葉を交わす。


 そんな感じで、三人は楽しい午後のひと時を過ごすのだった。


 もちろん。ビキニアーマー、それにバニースーツを着た、極上の美少女エルフ二人に世話をやかれるクロノを見て、男どもが嫉妬の嵐を巻き起こしたのは言うまでもあるまい。

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