第24話 潰れちゃえ♡

 迷宮二層目――


「は――っ!」


「喰らいなさい……《アイシクルランス》!」


 アリアフィーネが矢を放ち、シェリルが氷属性の中級魔法スキルである氷の魔槍――《アイシクルランス》を繰り出す。


 クロノに授けられた装飾弓から放たれた矢は、見事に敵であるホブゴブリンの眉間を貫通し、同じく装飾杖で強化された《アイシクルランス》は、その土手っ腹を大きく穿った。


「よし、アリアフィーネ、シェリル、いい調子だぞ」


「ありがとうございます、ご主人様!」


「クロノ様にいただいた武器を使えば、これくらい当然ですわ!」


 ここまでくるのに、クロノはほとんど手を出さず、アリアフィーネとシェリルに戦闘を任せていた。無論、二人を鍛えるためである。


 クロノに褒められ、アリアフィーネとシェリルの二人が嬉しそうな表情で彼に駆け寄ろうとした……その時だった――


 ヒュンッッ!


 ――そんな音が、響いた。


 そしてそれと同時……いや、僅かに速く、クロノは動いていた。


 瞬時に右手の中に《聖獣剣》を呼び出すと、そのまま縦に振りぬく。


 するとどうだろうか。


 彼の横を、真っ二つに割れた矢が通り過ぎていったではないか。


「ちっ……失敗だ! 引くぞ!」


 唖然とするアリアフィーネとシェリル、そして矢の飛んできた方向……にある岩陰を睨みつけるクロノの耳に、そんな声が聞こえる。


「逃すか……!」


 声が聞こえたその刹那――


 クロノは、今度は両手持ちで《聖獣剣》を振り上げ……そのまま勢いよく振り下ろした。


 ベヒーモスのステータスを引き継いだ腕力から繰り出された斬撃は、衝撃波を生んだ。


 衝撃波は岩肌の地面を穿ち進み、そのまま直線上にある岩を木端微塵に砕く。


「ぐあぁぁぁぁぁぁ――!?」


「なんだこれはぁぁぁぁ!?」


 木端微塵に砕かれた岩の向こうから、そんな声とともに四人の男の姿が現れた。

 岩を砕いてなお消えることのない衝撃波が、その四人を吹き飛ばし、壁に叩きつけた。


「な!? クラッブにゴイル……!?」


「それに、あとの二人は酒場でわたしたちに絡んできたゴロツキ冒険者……?」


 壁に叩きつけられた衝撃で起き上がることもできない四人の姿を見て、シェリルは、驚愕! といった表情を。

 その隣ではアリアフィーネが、呆れた……とでも言いたげな表情を浮かべている。


 そう……目の前に転がる人物は、シェリルの冒険者仲間であったクラッブとゴイル。


 そして、クロノとアリアフィーネがこの都市にやってきた日に、酒場で二人に絡んで返り討ちにあった、ハリーとマーブだったのだ。


「なるほど、吾輩に文句があるもの同士、手を組んだと言うところか? しかし、矢で命を狙うとは……」


 クロノはつけられている気配を感じ取っていた。

 だからこそ泳がせ、仕掛けてくるようであればそのタイミングで一掃しようと考えていた。


 しかし、まさかこの四人が尾行していたとは、そして命を狙ってくるとは……。


 アリアフィーネ同様に呆れた表情を浮かべてしまう。


「うぐ……テメェのせいで、俺たちは……」


「他の冒険者に馬鹿にされるハメに……!」


 体をガクガクと震わせながら、クロノを睨み、恨み言を吐くハリーとマーブ。

 どうやら、あの夜のことが周囲に知れ渡って馬鹿にされる様になったようだ。


「シ、シェリルを返せ……」


「俺たちのモノ――な、仲間なんだぞ……!」


 クラッブとゴイルも、同じように言葉を吐く。


 やはり、二人ともシェリルに固執していたようだ。


 途中で言い直したが、俺たちの〝モノ〟という言葉をクロノは聞き逃さなかった。


 ゆくゆくはシェリルを二人の慰みものにするつもりだったのだろう……そんな憶測がクロノの頭の中に駆け巡る。


「とりあえず、吾輩の命を狙ってきたのは事実だ。殺してやる……のは、まずいか。よし、しばらく眠っていろ」


「え、ちょ、ちょっと待て、何を――あぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!?」


 衝撃で身動きが取れないハリーの脚を開くクロノ。


 ハリーは「まさか!?」とでも言いたげな表情で身じろぎするのだが……その途中で悲鳴を上げて、気絶した。


 ハリーの股間に、クロノが蹴りを放ったのだ。


「ご主人様! わたしにもやらせてください! ご主人様の命を狙ったゴミに制裁を加えたいです!」


「む、そうか? 別にいいが……殺すなよ、アリアフィーネ?」


「もちろんです、生き地獄……味あわせちゃいますっ♡」


 アリアフィーネはどこか楽しそうな口調で、マーブの方へとカツカツとブーツを鳴らしながら近づいていく。


「い、嫌だ! た、頼む許して――」


「えいっっ♡」


 恐怖で引きつったマーブの脚の間に、アリアフィーネが踵落としを見舞った。


 何かが破裂したような音とともに……マーブは「〜〜〜〜〜〜〜――ッッ!?」と声にならない悲鳴を漏らすと、白目を剥いて気絶した。


「す、すごいですわ! わたくしもやってみたいですの!」


 興奮した声で、戦闘用ハイヒールに包まれた脚を前後に振るシェリル。


「あ、シェリルさんも興味あります? では、わたしが手伝ってあげますね?」


 そう言って、アリアフィーネが、何とか逃げようと身を捩るクラッブとゴイルの方へと歩いていく。


「「潰れちゃえっっ♡♡」」


 ――そんな可愛らしい、二人の美少女エルフの声に続き……。


 クラッブとゴイル二人の……男としての断末魔の悲鳴が迷宮に響き渡るのだった――

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