第22話 やはり目覚めていた

 翌朝――


「おはよう、クロノ君、アリアフィーネさん、よく眠れたかい?」


「はい、ライル様、お陰様でぐっすりと」


「泊めていただき、ありがとうございます」


 使用人に呼ばれ、食堂へと降りてきたクロノとアリアフィーネを、ライルが出迎える。


 食卓には既に朝食が用意されており、アニューとシェリルも席に着いている。


 どうやら、昨日ベッドでファンタジーしすぎたせいで、少々寝坊してしまったようだ。


 二人が席に着いたところで、皆、食事を始める。


「ご主人様、あ〜んです♡」


「お、おい、アリアフィーネ、人前では……」


 自分の皿から、料理をフォークに刺して差し出してくるアリアフィーネに、クロノはタジタジといった様子だ。


 彼女に甘やかされるのは、クロノとしても嬉しい限りだ。

 しかし、それも人前でとなると、やはり羞恥心が上回ってしまう。


 そんな中――


「ひゃう……っ♡」


 ――なんとも可愛らしい……それでいてどこか艶かしい声が食堂に響く。


 声のした方を見ると、何やらシェリルがクロノたちを見つめ、頬をピンクに染めながらモジモジしているではないか。


「ど、どうしたんだい、シェリル……?」


「具合でも悪いのかしら?」


 娘の行動に、ライルとアニューが心配そうに声をかける。


 そんな二人に対し、シェリルは……。


「お、お父様、お母様……わたくし、昨日の夜から変なのですの……。クロノ様とアリアフィーネ様が、イチャイチャするのを見たり想像したりすると、ドキドキしてきちゃいますの! アリアフィーネさんに、クロノ様が取られちゃうと思うと、なんだか疼いてしまいますの……っっ♡♡」


 ……食堂に響き渡るような声量で、そんな胸の内を叫んだ。


「「「Oh…………」」」


 シェリルの言葉で、彼女がそういう〝アレ〟に目覚めたことを察したようだ。


 ライルにアニュー、そして後ろに控えていたセバスティアンは、なんとも言えない表情で声を漏らす。


 一方で、一夜の間に何があったのかはわからないが、突然目覚めたシェリルの言葉に、アリアフィーネは思わず飲んでいた果実水を「ブフォッ!」と、吹き出してしまうのだった。


 ◆


 一刻後、客間にて――


「ところで……シェリルはどんな戦闘スタイルなのか、教えてもらえるか?」


「あ、肝心なことを伝えるのを忘れていましたわね。わたくしは下級の攻撃魔法スキル、それと同じく、下級の回復魔法スキルを持っていますの。ですので、中距離からお二人をサポートできればと思っていますわ」


「なるほど、魔法使いか。となると、武器は魔制具の杖あたりだろうか?」


「その通りですわ、クロノ様」


 魔制具とは、魔法スキルを発動する際に、特殊な素材でできた武具を使うことで、スキルの発動を向上させる代物である。基本的には杖が多いが、剣や槍など、様々な魔制具が存在する。


「よし、そういうことであれば……」


「ご主人様、まさかシェリルさんの武具も用意して差し上げるおつもりですか?」


「その通りだ、アリアフィーネ。吾輩とパーティを組んだ以上、死なれては困るからな。それに、彼女を強化すれば、迷宮の奥の階層にも行けるだろう」


 クロノとアリアフィーネのやり取りに、シェリルは「武具を用意する……?」と不思議そうな表情を浮かべる。


 そんなシェリルに――


「シェリル、これから吾輩がすることは、他言無用で頼む」


 ――と、クロノが言う。


 あまりに真剣な表情に、シェリルは「わ、わかりましたわ……!」と、緊張した面持ちで応えた。


「よし、《レプリエイト》……発動!」


 シェリルの答えを聞き、クロノは能力を発動する。


 突如放たれた閃光に、シェリルが「きゃっ!?」と驚いた声を上げるが……もちろん、驚きはこれでは終わらない。


 アリアフィーネの時と同様に、目の前にレプリカの《聖獣剣》が具現化する。


「え、は……?」


 何が起きたのか理解できない。


 そんな表情で口をパクパクさせるシェリル。


 そんな彼女に苦笑しながら、クロノは今度は《レプリコンバート》を発動させる。


 再びの閃光ののち、そこには純白の装飾された長杖が出来上がっていた。


「よし、シェリル、冒険の際はこれを使うんだ」


「こ、この輝き……まさかオリハルコン……? い、いえ! それよりも、まさか武具創造のスキルまで持っていますの、クロノ様!?」


「まぁ、そんなところだ。先ほども言ったが、他言無用で頼む」


「か、かしこまりましたの……」


 目の前で起こった出来事に、呆然としつつもシェリルは渡された装飾杖を大事そうに胸に抱える。


 自分の命を救ってくれた愛しい少年……。


 そんな彼が能力を使って武具を与えてくれたことが嬉しくてたまらないのだろう。


【シェリルの、クロノ様を想う気持ちが急上昇しました。このままベッドに押し倒しましょう】


(ええい! やかましわ! こんな時だけ出てくるの、やめてくれない!?)


 頭の中に響き渡る、相変わらずなカレンの声に、クロノはとうとう口調すら忘れて懇願するのだが……恐らくそれは無駄であろう。


 それはさておき。


 クロノは溜息を吐きながらも、今度はシェリルの防具を創るために、《レプリエイト》を発動する――

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