第21話 覚醒のお嬢様

「ズバリ、君たちの冒険者パーティに、シェリルを加えてくれないかな?」


「む? シェリルを吾輩たちの冒険者パーティに……」


「ですか……?」


 ライルからのお願い事……その意外な内容に、クロノもアリアフィーネもキョトンとした表情を浮かべる。


「ちょっと待ってくだされ、たしかシェリルは家出をして冒険者活動をしていたのでは?」


「そうだね、クロノ君。そして恐らく、シェリルは今後も同じようなことを繰り返すだろう。……ならば、クロノ君のような優秀な冒険者がそばにいてくれた方が安心だろう?」


 クロノのもっともな質問に、ライルは朗らかな笑みを浮かべながら、そう答える。


 どうやら、ライルはシェリルの冒険者活動をやめさせるのを諦めているようだ。

 もしくは、止められないような理由があるということだろうか……?


 見ればアニューも困ったような笑みを浮かべており、セバスティアンも何やら複雑な表情をしている。


「ご主人様、わたしはいいと思いますよ? シェリル様がパーティに加わるの」


「ア、アリアフィーネ!? お前は何を言い出すのだ……?」


 てっきり、アリアフィーネは反対するだろうと思っていたのだが……。


 シェリルを受け入れようとしていることに、クロノは驚いてしまう。


「と、いうよりも、これは人助けでしょうか?」


「む、どういうことだ、アリアフィーネ?」


「ご主人様、シェリル様は昼間の二人から執着されている様子です。このまま冒険者活動を続けるとすれば、また変なことに巻き込まれるかもしれません」


 たしかに、シェリルの冒険者仲間――クラッブとゴイルからは、シェリルを見捨てたくせに彼女に異常な執着を示した。


 そしてシェリルを助けたクロノに、彼女が靡くような様子を見せると、クロノに対し敵意を見せるなど、少し危ない匂いを醸し出していた。


 せっかく命を救ったシェリルが危険なことに巻き込まれるかもしれない……。


 アリアフィーネはそれを危惧しているようだ。


(ふむ、アリアフィーネ……。なかなか正義感が強い少女であったのだな)


 クロノはそのことに気づき、少しばかり感心してしまう。


 自分が愛した少女、そんな彼女の芯は正義であった。


 かつて世界を救った聖獣ベヒーモスとして、これほど嬉しいことはない。


「かしこまった。いつまで一緒に居られるかはわからぬが……シェリル、一緒に冒険者パーティを組もうではないか」


 アリアフィーネにそう言われてしまっては仕方ない。

 クロノはシェリルをパーティに加えることに決める。


 もっとも、あれだけの感謝の印を受け取ってしまったのだから、断るという選択肢はもともとなかったわけではあるが……それはさておく。


「ほ、本当ですの!? ありがとうございます、クロノ様!」


 クロノの答えを聞き、シェリルは興奮した声を上げると、そのまま嬉しさのあまりに、クロノに、ガバッ! と抱きついてしまう。


「うむぅぅぅ〜〜〜〜!?」


 アリアフィーネほどではないが、それでも十分に実っているドレス越しのシェリルの胸に顔面ダイブする羽目になり、クロノはくぐもった声を漏らすのだった。


 ◆


「ふむ、素晴らしい寝室だな」


「そうですね、ご主人様。お城のベッドに負けず劣らずです……♡」


 一刻後――


 ライルから「今日はもう遅いから泊まっていくといい」と言われ、寝室へと通されたクロノとアリアフィーネ。


 帝都の城にあるアリアフィーネの私室ほど……ではないが、ベッド自体はかなり上質なものが用意してあった。


 ところで……ベッドに腰掛けたアリアフィーネの頬がピンクに染まり、口調が甘いものになっている。


 おまけに、太ももをモジモジと擦り合わせて、クロノを誘うように胸元を開け始めたのだが……まさか人の家で〝キメる〟つもりなのだろうか?


「ふふ……っ、ご主人様ぁ……♡」


 妖艶な笑みを浮かべながら、アリアフィーネがクロノにしなだれかかってくる。


 アリアフィーネに求められて、クロノが断れるはずもなく……クロノは結局今日も陥落するのだった――


 ◆


「あわわわわわっ! すごいですわ! 隣の部屋から〝声〟と〝揺れ〟が伝わってきますの! こ、これってやっぱり、クロノ様とアリアフィーネ様が……」


 同時刻、隣の部屋で――


 シェリルが壁に耳を当てながら興奮した声を漏らす。


 クロノとアリアフィーネが客室に通されて少し……。


 何やら艶かしい声と、床が反動によって軋むような音が響いてきた。


「す、すご……あんなにお淑やかだったアリアフィーネさんが、こんな声を出すなんて……!」


 壁越しに聞こえてくる嬌声に、シェリルは興奮しつつも、その表情は複雑なものに変わってゆく。


 自分の命を救ってくれた愛しい少年――クロノ。


 そんな彼が、既に別の女性とそのような仲になっていた……。


 実は……シェリルにとって、クロノは初恋の相手であった。


 もちろん、父や母にパーティに加えてもらえるようにお膳立てまでしてもらったのだ。


 クロノを諦める気は毛頭ない。勝ち目が薄い戦いだろうと、正々堂々と立ち向かう心構えは済ませている。


「でもどうしてですの……? クロノ様がアリアフィーネさんに取られてしまうと思うと……疼いてきちゃいますわ……♡」


 …………このお嬢様、目覚めたらしい。

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