第20話 恐怖の食事会

「こ、固有スキルをいくつも持っているだって!? ……なるほど、確かにそれならハイオークを倒すことだってできるかもね……」


 食堂へと通されたクロノとアリアフィーネ。


 ライルはクロノの強さの秘密が気になったので、その辺りのことを質問すると、クロノは固有スキルをいくつか持っていると説明した。


 まさかベヒーモスの転生体だから……などとは説明はできないので、アリアフィーネの時と同じように対応したわけである。


 ライルはその説明を信じてくれたようだ。


 驚きの表情を浮かべつつも、それであれば納得がいくと頷いている。

 彼の隣に座ったアニューも同様だ。


「身体強化系の固有スキル、それに武具召喚系の固有スキルですの?」


「ああ、そのような感じですな、シェリル様」


 迷宮でクロノが使った力を見て、彼のスキルを予想するシェリルに、クロノは当たらずとも遠からず……みたいなニュアンスで答える。


 その辺の予想に合わせておけば、特に不都合は生じないだろうという判断だ。


「もう、クロノ様ったら、そんなかしこまった呼び方はイヤですの。シェリル……って、呼び捨てにしてほしいですの……♡」


 クロノの右隣に陣取ったシェリルが、蕩けた表情でクロノに言う。


「い、いや、流石にこのような家のご令嬢に呼び捨ては……」


 ――と、クロノは断ろうとするのだが……。


 言葉の途中で、シェリルが泣きそうな表情を浮かべてしまう。


 困った様子でクロノはアーデ夫妻の方を見ると――二人はニッコリと笑って頷いた。


 笑顔という名の圧力である。


「かしこまった。それではシェリルと呼ぼう」


「ありがとうございますですの! クロノ様!」


 クロノの返答を聞き、シェリルはパッと花の咲いたような笑顔を浮かべると、そのままクロノの腕に抱きついてしまう。


「ふふ……っ、ご主人様はモテモテですね?」


 そして左から、笑顔のアリアフィーネまでもが抱きついてくる。


 いつもの優しい微笑み……なのだが、なぜかクロノの背筋に冷たいものが走り抜けた。


「むぅぅ〜〜〜〜っ!」


「ふふふっ……」


 クロノを挟んで、シェリルとアリアフィーネが視線を交わす。


 シェリルはほっぺを膨らませ、アリアフィーネは余裕を感じさせる微笑みを貫く。


「ふむ、少し質問なんだけど、アリアフィーネさんはクロノ君のメイドだと言っていたよね?」


「はい、その通りです、ライル様。アリアフィーネはメイドであり、吾輩の大切な女性であります」


「ご主人様……っ!」


 クロノの言葉に、アリアフィーネが、嬉しさのあまり瞳を潤ませる。


 愛する少年からの嘘偽りない真っ直ぐな言葉……それを改めて聞いたことで感動してしまったようだ。


「ふむ……」


 ライルのからの質問にクロノが即答すると、ライルは「ふむ……」と少し考え込む。


 そんなライルに――


「旦那様、お耳を……」


 ――と、後ろに控えていたセバスティアンが、何やらコソコソと耳打ちを始める。


(む、何かわからんが、イヤな予感がするぞ……)


 セバスティアンの言葉に、ライルが「ふむふむ」と何度も頷くのを見て、クロノはそんな感覚を覚える。


「いい考えだ。ありがとう、セバスティアン」


 セバスティアンとのコソコソ話を、ライルは笑顔で締めくくった。


 そこからは他愛ない会話を交えつつ、食事会が進んだ。


 途中でアリアフィーネとシェリルが、クロノの口についたソースを拭く役目を奪い合う……なんてやり取りも発生したが、微笑ましいものであった。


 …………ここまでは――


「そうだ、クロノ君には娘を救ってもらったお礼をしないとね。セバスティアン、アレを持ってきてくれ」


「かしこまりました、旦那様」


 ライルに言われ、奥へ引っ込んでいくセバスティアン。


 すぐに戻ってきた彼の手には銀のトレーが……。


 その上に、白金に輝く硬貨が五枚、それに何やら宝石のようなもので装飾された短剣が乗せられていた。


 それを見た瞬間、クロノとアリアフィーネが「「……っ!?」」と引き攣った表情を浮かべる。


 トレーに乗せられた硬貨――それは〝白金貨〟と呼ばれる硬貨であり、その価値は金貨の十倍だ。


 前にも説明したが、このような大都市であっても、金貨二枚あれば四人家族が十分に暮らしていける価値がある。


 それの十倍も価値がある白金貨が五枚……。


 さらにはヤバイ輝きを放つ……見るからに宝石だとわかるもので装飾された短剣までも……。


 どうやら、ライルが会長を務めるアーデ商会は、クロノたちが思っていた以上の富を築く商会のようだ……。


(こ、これを受け取ったら……)


(確実に終わります……!)


 クロノとアリアフィーネの頭の中に、そんな考えが駆け巡る。


 目玉が飛び出るような感謝の印……。

 こんなものを受け取ってしまえば、今後何かを頼まれたとしても断ることは困難である。


 それをクロノは本能で、アリアフィーネは知識として理解したのだ。


「あっ……ありがたく、いただきます……っ」


 しかし、クロノはそれを受け取ってしまった。


 受け取らなければ受け取らないで――


『お前の娘はそのお礼の価値もない』


 ――と、言っているのと同義になってしまうからである。


「ところでクロノ君、少しお願いがあるのだけれど……」


((ひぇ……っ!?))


 クロノがお礼を受け取ったところで、切り出してきたライルに――


 まさかこんなに早く仕掛けてくるとは……!


 ――と、クロノとアリアフィーネが心の中で小さく悲鳴を上げる。


 逃げられない状況を作り出すような財を叩いてまで、ライルがクロノにお願いしようとしている内容とは……――

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