第18話 嫉妬の嵐
(さて、どうしたものか……)
クラッブとゴイルに睨まれながら、クロノは悩む。
試しに優しくシェリルの腕を解こうとしてみたのだが……。
余計に強く密着された上に――
お願いだから離れないで!
――みたいな表情で見つめられてしまった。
今度は受付嬢であるアーナルドに助けを求めようと視線を送る……のだが、小さく首を横に振られる。
ギルドの職員としては、あまり深く立ち入ることはしないのだろうか。
しかし、クロノが困りきったところで、こんな声が聞こえてきた。
「なぁ、アイツらヤバくねーか?」
「ああ、他のパーティにハイオークを押し付けた挙句、仲間を見捨てるとか……」
声のした方……ギルドの酒場を見れば、冒険者たちがヒソヒソとやり取りを交わしている。
その誰もが、クラッブとゴイルを軽蔑した目で見つめている。
「く……っ!?」
「お……おい、ゴイル、ここは帰った方がいいんじゃ……」
他の冒険者たちの視線に耐えきれなくなったのか、クラッブとゴイルが声を漏らす。
そしてそれを見て、アーナルドが小さく笑みを浮かべる。
(ああ、なるほど。吾輩を助けるつもりがなかったのではなく、助ける必要がなかったというわけか)
アーナルドの表情を見て、クロノはそのことに気づく。
あれだけ大きな声で、シェリルが今回のことについてアーナルドに報告したのだ。
他の冒険者たちが、このような反応を示すのは当然ということである。
「シ、シェリル、今回は本当にすまなかった!」
「今日のところは帰る……が、また声をかけるから!」
そんな言葉を残すと、クラッブとゴイルはそそくさと立ち去っていった。
「なぁ、シェリルよ、そろそろ離れてくれんか?」
「……わたくしに密着されるの、嫌ですの……?」
「む、むぅ、嫌とかそういうのではなくてだな……」
離れろと言われた途端に、泣き出しそうな表情を浮かべるシェリルに、クロノは言い淀んでしまう。
彼女の想いを、カレンから聞いてしまったので、余計に強く言いづらいのである。
「ところでさっきの話の続きだけど、クロノちゃんってば、まさかハイオークを倒しちゃったのん?」
「そうですわ! 殺される直前の私を、クロノ様が救ってくださいましたの! キック一撃で戦闘不能に追い込んでしまいましたのよ!」
アーナルドの質問に、シェリルが興奮した様子で答える。
助けられた時のことを思い出したのだろう。
彼女の頬はほんのりピンク色に染まり、大きな瞳はとろんと細められている。
「ハ、ハイオークを蹴りで戦闘不能に追い込んだだと!?」
「あんな小さなガキがか!?」
「強い、そしてなんとも勇気ある少年だな……!」
シェリルの言葉を聞き、冒険者たちが口々に驚愕、そして称賛の声を漏らす。
クロノが褒められたのが嬉しかったのだろう。
アリアフィーネが得意げな笑みを浮かべながら、自慢のエルフ耳をピコピコ上下させて仁王立ちになる。
そしてその拍子にビキニアーマーに包まれたメロンが、ぷるるん! と大きく揺れる。
「「「おうふ……っ!?」」」
アリアフィーネの魅力的な体に、男たちは思わず前屈みである。
「ハイオークを一撃で……シェリルちゃんという証人もいるわけだし、これはCランクに昇格させないといけないわね♪」
シェリルの話を聞くと、アーナルドはそう言って、バチン! とウィンクをクロノに飛ばす。
(おえっ!)
気色悪さに、クロノは若干の吐き気を覚えるが、下手な反応をしようものなら掘り倒されかねない……。
クロノはなんとか……平静を装うのであった。
「EランクからCランクに飛び級なんて……さすがご主人様です!」
ランク昇級の知らせを聞き、アリアフィーネは大興奮だ。
クロノに飛びつくと、彼の顔を豊満なメロンバストの中に強制ダイブさせてしまう。
「んむぅ〜〜!?」
突然の強制メロンダイブに、お約束通りクロノが胸の下からくぐもった声を漏らす。
「くそう! くそう! あんな美人なエルフに抱きしめられるなんて!」
「強い上に見た目よし! その上モテるとか反則だろう!」
アリアフィーネに抱きしめられるクロノを見て、男性冒険者たちが嫉妬の嵐を巻き起こす。
中には悔しさのあまりに、床を殴りつける者までいる始末だ。
だが、全員が楽しそうな表情を浮かべている。
少女の命を救ったクロノ――
そんな彼に対し、冒険者たち皆が「よくやった!」と称賛の気持ちを持っている証拠なのだろう。
そんな中――
「むぅ〜〜〜〜っっ!」
――抱擁の拍子に、クロノから引き剥がられる形となったシェリルが、悔しそうな表情を浮かべながら、ほっぺを大きく膨らませる。
そして、アリアフィーネは、シェリルの嫉妬の感情に気づいたようだ。
そのまま得意げな表情を浮かべると、クロノをさらに深く抱き込み、彼の頭を愛おしげに撫でながら――
「ふふん……っ♡」
――と、得意げな笑みを浮かべる。
「むぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜っっ!」
アリアフィーネの表情を見て、シェリルは今度は涙目になりながら、さらにほっぺを膨らませるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます