第17話 修羅場
「ア、アリアフィーネ、そろそろやめるのだ。念のために、早くここから出るとしよう」
「あ、そうですね、ご主人様。つい夢中になってしまって……」
アリアフィーネの抱擁を味わうこと暫し――
そんなやり取りを交わしながら、クロノがアリアフィーネの胸から抜け出す。
「少女よ、歩けるか?」
「は、はいですわ! 助けていただき、本当にありがとうございます!」
シルバーブロンドの美少女エルフにクロノが問いかけると、彼女はそう言って返事をする。
どうやら大した怪我もしていないようで、クロノは一安心する。
「一人では不安であろう。吾輩たちと一緒に迷宮を出るとしよう」
「よ、よろしいのですの……?」
「ああ、ちょうど帰るところだったのでな。おっと、その前に……」
シルバーブロンドの美少女エルフとやり取りを交わしながら、クロノはハイオークの死体の元へ戻り、転がった首を手にする。
せっかく倒したのだ。
ギルドに持って帰り、貰えるのであれば討伐報酬をもらってしまおうという考えである。
本来なら死体を丸ごとストレージに入れて、持ち帰りたいところではあるが、アリアフィーネ以外の人間が見ている前なので迂闊に使うことはできない。
「そういえば……まだ名乗ってなかったな。吾輩の名はクロノ、そして彼女の名はアリアフィーネだ」
「あ、こちらこそ名乗りが遅れて申し訳ありません! わたくしの名前はシェリルと申します。一応Dランク冒険者をやっておりますの!」
互いの自己紹介が終わったところで、改めてシルバーブロンドの美少女エルフ――シェリルが頭を下げる。
Dランクの冒険者……一応一人前と認められた階級ではあるが、さすがにハイオークが相手では歯が立たないというものだ。
(む……? 何やら顔が赤いような気がするが……大丈夫か?)
シェリルの顔を見て、クロノはそのことに気づく。
そんなクロノの頭の中に、カレンの声が響く――
【シェリルがクロノ様に恋心を抱いたようです。性交渉が可能になりましたが、いかがいたしますか?】
(ええい! やかましいわ! というか、この少女もなのか!?)
アリアフィーネに続き、たまたま助けた少女に惚れられてしまった……。
カレンからもたらされた、要らん情報に、クロノは驚愕することとなる。
クロノの驚いたような表情に、アリアフィーネとシェリルは「「……?」」と、不思議そうな顔を浮かべながらも、彼の後に続き迷宮を後にするのであった。
◆
「シ、シェリル!?」
「無事だったのか……!」
迷宮を出て少し――
ギルドへと帰ってきたクロノとアリアフィーネ、そして一緒についてきたシェリルの耳に、そんな声が響く。
声のした方向を見れば、迷宮でハイオークから逃げてきた、青年二人がこちらへ駆け寄ってくるではないか。
「ふんっ!」
駆け寄ってきた青年二人を見た瞬間、シェリルはそう言ってソッポを向いてしまう。
まぁ、あの危機的な状況で見捨てられるような真似をされたのだ。
そんな反応をしても致し方あるまい。
(まぁ、こればっかりは、当人たちの間で解決してもらわなければな)
あくまでも命を助けただけであり、冒険者仲間と思われる彼女たちを仲裁する必要はない。
クロノはそう判断し、アリアフィーネを連れてそっと受付カウンターに移動しようとした……その時だった――
「ち、ちょっと……クロノちゃん? あなたが手にしてるのって、まさか……!」
――受付カウンターの方から、そんな声がする。
そこにはクロノの手にぶら下げられたハイオークの頭を、目を見開いて見つめる受付嬢アーナルドの姿があった。
「アナさん! 聞いてほしいのですわ! この二人……〝クラッブ〟と〝ゴイル〟が、ハイオークに襲われたわたくしを、見捨てて逃げて行ったのです!」
青年二人――クラッブとゴイルというらしい――の間から抜け出し、シェリルが声を上げる。
そしてそのまま、クロノの方へと歩くと――
「クロノ様が助けてくれなかったら、今ごろわたくしは、ハイオークに殺されていましたの!」
――と言いながら、彼の腕に自分の腕を絡ませ胸を……むにゅん! と押し付けてしまった。
大きい。
迷宮では気にならなかったが、かなり大きい部類なるだろう。
アリアフィーネがメロンクラスであれば、シェリルは桃クラス……といったところだろうか。
「な……!? おい、シェリル! その小僧から離れるんだ!」
「そうだ! こっちへ来い!」
青年二人――クラッブとゴイルが、クロノに密着したシェリルに、顔を真っ赤にしながら怒鳴り声を上げる。
そんな二人に、またもや「ふんっ!」と言って、ソッポを向いてしまうシェリル。
そしてそのまま、クロノにさらに密着し始めてしまう。
その様子を見て、クラッブとゴイルがクロノを、キッ! と睨みつける。
「あらあら、修羅場ねん♪」
「修羅場ですね〜」
クロノにシェリル、そしてクラッブとゴイルのやり取りを見ながら、アーナルドとアリアフィーネがのんきな声を漏らす。
(あぁ……よくわからんが、またこのような展開になるとは……)
どうやら、この騒動の渦中になってしまったことに、クロノは気づいたようだ。
疲れた表情を浮かべながら、天井を見つめるのであった――
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